公害都市という悪い印象があった川崎市だけに、観光要素の少ない川崎市交通局(以下、川崎市営)に観光バスや高速バスの話は縁遠いと思われていた。
しかし対岸千葉県木更津市への横断道路(アクアライン)の完成が近づくと高速バスの運行の話が浮上。
1997年12月のアクアライン開通と同時に、対岸木更津から羽田空港、横浜、川崎の3路線が開業し、その川崎線に川崎市営も堂々の参入を果たした。
執筆/写真:石川正臣(バスマガジンvol.94より)
【画像ギャラリー】川崎からアクアラインを渡る伝説の高速バスの雄姿
長いトンネルからパッと海上に出る開放感を味あわせてくれる路線!!
川崎駅―海ほたる―木更津駅
川崎市交通局/川崎鶴見臨港バス、京浜急行電鉄、東京ベイサービス、日東交通、小湊鐡道
川崎市営の車両は富士重車体の日産ディーゼル社製。塗色は既存車両と違うダークグリーンで飾られていた。
6事業者がこのルートを運行することになったが、京浜急行バス、川崎鶴見臨港バス以外の4社は初の高速バス運行だった。
川崎駅の広いバス乗り場から、この木更津行きの高速バスは発車する。市街地を過ぎると、数多くの工場が続くエリア、続いて京浜工業地帯のど真ん中を進む。
次々と路線バスとすれ違うが川崎市営の車両が特に目を引く。満を持して高速バス参入したことにもうなずけるほど、このエリアをネットワークしていることがわかる。
浮島バスターミナルに到着し、さらに乗客を乗せるといよいよアクアラインへと向かう。入線するとすぐに始まる下り坂のトンネルをどんどん進む。
最低点を通過するとこんどはひたすら上り坂だ。遠くに小さく見える出口の光。この光がどんどん大きくなっていき、東京湾のど真ん中にある中継点のS.A.、海ほたるに到着する。
マイカー渋滞を横目にして海ほたるへ進入。ここでほとんどの乗客が入れ替わり、今度は海上にかかる橋をわたる。渡り終えしばらくして袖ヶ浦バスターミナルへ到着した。
バス&ライド利用者のためのマイカー駐車場が、とても広く確保されている。そして国道を走り終着の木更津駅に到着だ。開業当初は海ほたるが目当ての利用者も多く乗車していた
海上を走るこのルートは風光明媚で、楽しいクルージングという感じのバス移動だが、特に川崎線の人気は群を抜いて好評だったのは、3路線中唯一、人口島・海ほたるに停車したためだった。
いまでも混雑するこのポイントだが、開業当時は特に海ほたるパーキングへ向かうマイカーの渋滞は大変な時間を要していた。しかし路線バスの場合はすぐに入れる対応がなされていた。
その後、千葉県側は木更津以外にも館山、鴨川始発も加わり、東京側は東京、新宿始発と多くの路線が開業していった。
この川崎線はフェリー代替路線的存在で通勤利用者も多く、安定した利用ぶりだった。
しかし川崎市営は工場跡地中心に路線拡張が進み、1路線の高速路線よりも一般路線バスに力を入れることになったため、ほかの5社に高速バスを任せ、撤退した。
利用者が少なく、やむない事情での運行取りやめではなく、好評な中での撤退は断腸の思いだったのではと推察される。
後にも先にも川崎市営唯一の歴史の残る高速路線となったこの便。ほか5社による末永い運行を願ってやまない。