「共同経営」という言葉を最近聞いていないだろうか。「地域における一般乗合旅客自動車運送事業及び銀行業に係る基盤的なサービスの提供の維持を図るための私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の特例に関する法律」という、非常に長いタイトルの法律にもとづいて取り組まれる複数のバス事業者の共同運営手法のことで、現在までに5地域が国土交通省の認可を得ている。
(記事の内容は、2022年5月現在のものです)
執筆・写真/鈴木文彦
※2022年5月発売《バスマガジンvol.113》『鈴木文彦が斬る! バスのいま』より
■交通サービス維持のための特例措置
この法律を公式の略称である「独占禁止法特例法」と呼ぶ。なぜこの法律ができたかというと、現行の独占禁止法では乗合バスが運賃収入をプールして運行回数などに応じて分配したり、ダイヤを調整したりするなど、競争手段に対する制約となる協定については問題とされていた。
しかし人口減少や担い手の減少など、厳しい状況下で乗合バスが地域住民の生活に必要なサービスを維持していくために、地域における基盤的なサービスの維持という観点から同法の適用を特例的に除外することとしたものである。
共同経営と言っても事業体を1つに統合することではなく、各社が会社間の垣根を越えて路線再編等の最適化の取り組みを実施、利用促進策やデータ公表を共同で行う形が主体である。
これにより、事業者間または地方自治体など協議会等の場で、直接協議を行って運賃・ダイヤの調整、運賃プールなども行えることになった。
■これまでの手法でも可能な部分はあったが……
「今までもやってきたことなんじゃないの?」という疑問をもたれる方もいらっしゃるだろう。1950年前後から、自社のエリアを越えた長距離バスや都市部乗り入れの際、複数事業者が運輸協定を結んで同一区間を重複運行するケースが増え、現在も少なからず協定路線が存在している。
この場合、利便性向上や効率化のため、等間隔化などのダイヤ調整は当然行われてきているし、ダイヤ改正も協議を経て行われてきた。
また1980年代後半からの都市間高速バスの発展期には、起終点の事業者が相互に営業資源や施設を供与する形を基本に共同運行を行い、東日本を中心に運賃のプール精算もひとつのスタイルとなった。
これらはいずれも、関係事業者間の調整であって他社の参入を排斥したり近隣の競合他社に不利益を及ぼしたりするものでない限り、独占禁止法の精神に悖るものではなかったとは言える。
高速バスの運賃プールについては判断の微妙なところもあり、のちに状況変化もあって自社便の収入をとるいわゆる着札精算に変えたところが多いが、一般路線の運輸協定では運賃プールまでやっていたケースはもともとわずかだった。
ダイヤの調整は例えば「ダンゴで走らせるより間に等間隔で入れたほうが利用者を獲得できる」という、いわば各社独自の経営戦略の範囲と言ってもよいのではないか。
また、ドライバー不足が顕在化している現在、他社と重複運行している路線については、自主的に他社に任せて撤退するケースも全国に散見される。そういう意味では、等間隔ダイヤや重複路線における運行事業者の一元化あたりまでは、特例法によらずとも可能な範囲ではなかったかとも思う。
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