■独占禁止法特例法による共同経営計画事例の表情
さて、これまでに独占禁止法特例法にもとづいて共同経営計画の認可を得た5事例は、熊本地域(九州産交バスなど5社)、岡山駅・大東間(両備HD・岡山電気軌道)、前橋市内(関越交通など6社)、徳島県南部(徳島バス・四国旅客鉄道)、長崎市域(長崎自動車・長崎県交通局)の5地域である。
第一号の熊本地域は、このために特例法ができたとさえ見えるほど、周到に準備された計画である。
2019年に熊本市が組織する「バス交通のあり方検討会」で路線再編と経営統合を含めた運行の見直しを議論していた熊本都市圏の5社(九州産交バス・産交バス・熊本電気鉄道・熊本バス・熊本都市バス)は、2021年3月に特例法の認可を受け、4月から第一弾がスタートした。
この段階で目に見える変化は、旧国道3号(植木・山鹿)方面、川尻市道(川尻・松橋)方面、産業道路・国体道路(長嶺)方面、旧57号(楠・大津)方面の4方向について、一部の重複路線で事業者の一元化(持ち替えや一部撤退)が行われ、利便性をほぼ確保しつつ効率化を行った。
余力は大型商業施設が開業するJR熊本駅への路線延長や都心を回遊する「まちなかループバス」の新設に充てた。今後最も複数事業者が重複して運行する「電車通り」の最適化に向けた計画策定など、広域的かつ複合的な共同経営計画に向けて動く見込みである。
熊本地域はまさに共同経営計画の神髄に進んでいきそうな感じをいだくが、公表されている計画を拝見する限りで言うと、岡山は単一方向のグループ2社の調整、前橋は事業者数こそ多いが等間隔ダイヤ調整が中心、長崎は2社のダイヤ調整と重複路線の一元化と、もう少し突っ込んだ取り組みを期待したくなる範囲にとどまっている。
■期待される異なるモードの連携による共同経営
そんな中で筆者が注目しているのが2022年4月から始まった徳島県南部の取り組みである。共同経営を行うのは徳島バスとJR四国。鉄道とバスが運賃面で連携を行うのは全国初のケースとなる。
これまで並行する鉄道とバスは、競合関係としか認識されてこなかった。しかしすでにそんな時代ではなくなった。地方では鉄道もバスも利用者が限られ、事業として単独では成り立たない状況になっている。
とはいえ双方とも地域にとって貴重な現有資源であり、最も避けなければならないのは“共倒れ”になって地域から公共交通機関が消えてしまうことである。そこで、双方の資源を有効活用し、利便性向上による利用者増を図って経営力の強化~公共交通維持につなげようという狙いである。
近年ではJR九州が西鉄や宮崎交通と連携してMaaSを含む地域交通のレベルアップに取り組み始めている(考えてみればMaaSも共同経営に通じる取り組み)が、今回の徳島県南部の取り組みは、よりルーラルな地域での公共交通のあり方を探るモデルにもなりそうだ。
計画の概要はこうだ。JR四国牟岐線(徳島~阿波海南)には並行して徳島バスの大阪~阿南・生見・室戸岬間高速バスが運行されている。
牟岐線のうち、徳島~阿南間は利用が多いため、列車も並行する徳島バスの一般路線もほぼ30分に1本走る区間である。しかし阿南以南は需要が大きく減るため、JR四国は近年牟岐線の列車本数を削減、2時間に1本程度になった。
徳島バスは阿南の5キロぐらい南の橘営業所から牟岐までの区間に一般路線はなかったため、唯一のバス路線となった4往復の高速バスについて、乗降指定(大阪行は乗車のみ、大阪発は降車のみ)を改め、地域の利便確保の面から阿南~生見間については一般路線と同様各バス停相互間の利用ができるようにしていた。
そこでこの高速バスを活用し、牟岐線阿南~浅川間に有効な乗車券(定期券・回数券・トクトクきっぷを含む)を持っていれば、それをバス乗務員に提示して大阪線高速バスの阿南駅、橘営業所、由岐、日和佐、牟岐、浅川の6停留所相互間をそのまま利用できるようにしたのが今回の取り組みである。
従来のダイヤをそのまま活用しているので、必ずしも列車の空白時間にうまくバスが走るとは限らず、下りは大阪から来るため遅延するケースもあるが、列車とバスを合わせれば利用者の選択肢は倍増し、牟岐止まりの列車とバスを乗り継ぐ場合も鉄道運賃の通算で割安となり、利便性は向上する。
すでに四国版のJR時刻表の牟岐線のページには徳島バスの高速バスが併記されており、鉄道とバスを同じ地域公共交通として位置づける流れができつつある。いずれは牟岐以南を走る徳島バス南部の一般路線も取り込んだ展開ができるとより効果的なのではないか。
四国運輸局も「複数のモードが連携した公共交通ネットワークの四国モデル」として肝煎りの今回の計画、ぜひ成功に導きたいものである。
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