長距離走行テストで判明!! 次世代のバスとしてのEVの実力は?

路線バスとしては十分な航続距離を確認

 そうしてみると、本当のところどこまで走れるのかを確認しようとした今回のオノエンスターEVの実験は、非常に貴重な体験だったといえる。

 走行したのはベースのある東京都八王子市から一般道を走って愛川ICから圏央道に乗り、圏央道~東名~新東名と高速を走って新富士ICで下り、国道139号を北上して河口湖ICから中央道に乗り、国立府中ICまで走って一般道で出発地に戻るという、約260kmのコース。

 もちろん途中で何かあってはいけないので、充電装置を積載した車両を併走させての実験であった。

 ここでやっと結論をいう。この日オノエンスターEVは途中充電することなく帰り着いた。充電なしで走った距離は、トリップメーターの記録で257.7km。この時点で充電状況を示すメーターは16%を示していた。つまりもう少し走れる余力を残してこの距離を走破したということになる。

 この日は夏の盛りだったので、エアコンはフルに稼働させた。加えて行程の半分以上が高速道路なので、無理はしていないものの、アクセルを踏み続ける状況が多く、それなりに過酷な条件だったと言える。

 それで260km余を走り抜いたという結果は貴重である。一般的に路線バスが1日に走る距離は150~180kmぐらいが上限で、市街地路線ならEVバスの場合回生で充電される機会もあることを考えると、十分に「使い物になる」ということを証明したともいえよう。

かなりクリアされたEVバスの使い勝手

こちらは上野動物園シャトルバスとして運行しているBYDの小型EVバス。縦3連のヘッドライトでシャープな顔つきだが、ボディに描かれたパンダには思わず微笑んでしまう
こちらは上野動物園シャトルバスとして運行しているBYDの小型EVバス。縦3連のヘッドライトでシャープな顔つきだが、ボディに描かれたパンダには思わず微笑んでしまう

 これまでに導入されたBYD電気バスについて、現場の声を聴いてみると、岩手県交通や会津バスの乗務員からは特に違和感なく運転できて上り坂でも十分なパワーがあるという声が聞こえ、全体に車両に対する評価は高い。

 今回筆者も、短区間ではあるがオノエンスターEVを運転させてもらった。

 なにぶんにも筆者は、資格は持っていても日常的にバスを運転しているわけではなく、実はEVを運転したのも初めてなら、オートマチックの大型車で公道を運転するのも初めてだったので、運転そのものについてのコメントは差し控えるが、ほとんど違和感もなく快適に運転できたことだけはお伝えしておく。

 加速は非常に力強く、運転した場所は起伏が結構ある一般道であったが、上り坂もごく普通のアクセルワークでスイスイ上った。BYDの現場取材で乗務員から聞いた感想が、筆者が運転した感覚にもスッとはまった。

今後主流に育っていくのかEVバス

 現在日本でのEVバスの主流はBYDである。今回試乗したヤーシン製は現在のところ前号で紹介されているイーグルバスの「小江戸巡回バス」のみで、オノエンスターEVとしてラインナップされている10.5mクラス、9mクラス、7mクラスのノンステップ路線バスは、これからの展開となろう。

 BYDは中国の自動車メーカーであるが、もともとバッテリーメーカーの子会社であり、自動車メーカーとしての歴史は浅いものの電気自動車の分野においては定評がある。2010年にメルセデス・ベンツと提携し、EUでの車両形式認証も取得、世界での電気自動車のシェアもトップとされている。

 実際に筆者も海外の都市で活躍するBYDのEVバスを見て、逆に日本でも見られるようになったスタイルだけに、親近感を感じたりしている。日本にも最近、日本法人のビーワイディージャパンを設立し、販売体制を強化、会津バスに入った中型に続き、新たに小型EVバスもラインナップされている。

 では今後、EVバスは主力として育っていくのだろうか。

 現場の声からも推察されるように、EVバスの技術的な課題や取り回し、使い勝手についてはかなりクリアされてきたと見られよう。ただし、普及するためには、もう一つの大きな課題をクリアしなければならない。それはコストである。

 岩手県交通に入った大型EVバスの場合、価格は1台6500万円と言われ、一般的な同クラスのディーゼルバスの約3倍である。となると事業者ベースでの拡充は難しく、同社が活用したような国の支援メニューなり、普及に向けた長期的なバックアップ体制が必要であろう。

 燃料電池バス(FCバス)については、東京オリンピック・パラリンピックを視野に東京都を中心として進められた施策の一環で、東京都交通局だけでなく、京浜急行バスを皮切りに都内の民間事業者に順次導入されている。また国の支援制度を活用して地方都市でもいくつかの導入事例が見られるようになった。

 FCバスも現場の評判はよく、乗務員からも力がある、取り回しがよいといった声が上がる。しかし行き着くところはやはり、さらにEVバスの1.5倍ぐらいになるコストの問題である。またFCバスが普及できるかどうかは水素ステーションの普及如何に左右される。

 海外でもFCバスは20年近く前に“10年後”の普及への決意表明があったが、それからさらに10年過ぎた現在に至るも普及には程遠い。EVバスは確実に増えてはいるが、どこも主流にはなりえていない。

 そこに横たわるのはやはりコストの問題だと聞く。ゼロ・エミッションではないものの、すでに世界的にもかなりクリーンになったディーゼルエンジンの効率性や技術的完成度をしのいでEVバスを主流とするには、国レベルでコスト負担を含めた本気のかじ取りがなければならないだろう。

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