結局のところトロリーバスは次世代の乗り物として再評価されるのか? をチェコを例に考察した件

結局のところトロリーバスは次世代の乗り物として再評価されるのか? をチェコを例に考察した件

 最近、筆者の地元であるチェコの首都プラハでは、次々とトロリーバス路線網が拡充され、既存の路線バスを置き換える動きが加速している。

文・写真:橋爪智之
構成:中山修一
(バスマガジンWeb/ベストカーWebギャラリー内に、拡充が進むプラハ市トロリーバスの写真があります)

■新型車両導入のため試験を開始

地下鉄駅と郊外の住宅街を結ぶ路線バスへ導入されたトロリーバス
地下鉄駅と郊外の住宅街を結ぶ路線バスへ導入されたトロリーバス

 トロリーバス路線網拡充の中で、市内中心部のカルロボ・ナムニェスティからストラホフ競技場まで運行されている176番の路線バスは、トロリーバスへの転換が決定しており、既に工事が始まっている。

 導入する車両は、トルコのボザンカヤ(電気品はメドゥコム)製で、1両がすでにプラハへ到着し、他路線で試験走行がスタートした。

 これまでのソラリス/シュコダ製に代わり採用されたボザンカヤ/メドゥコム製トロリーバスは、チェコでは初採用となったため、運行のための認可を取得する必要がある。

 認可の取得には、実際に乗客を乗せ1万キロ以上走行しなければならないなど、鉄道に近い扱いとなっており、この辺は「無軌条電車」と呼ばれるだけのことはある。

 わざわざ導入実績のない新車を入れるために、走行試験を行うなど、プラハ市はトロリーバスの導入に積極的になっている、というわけだ。

■どうして今更トロリーバス?

 日本では、富山県に残っていた最後のトロリーバスが姿を消し、すでに過去の乗り物となってしまったが、それとは全く逆を行くプラハ市。どうして、今さらトロリーバスを積極導入することになったのだろうか。

地下鉄に接続したバスターミナルで発車を待つトロリーバス
地下鉄に接続したバスターミナルで発車を待つトロリーバス

 プラハ市ではこれまで、特に環境問題を重点的に取り組むとして、ディーゼルエンジンを搭載したバスで運行される路線の、トラムへの置き換えを進めてきた。

 現在のトラム路線網は、市内中心部がメインとなっており、郊外はフィーダー輸送として多くの路線バスが運行されている。

 そのため、まずはトラムを郊外団地などへ延伸し、バスによる運行区間を削減させる計画を進めている。

■トラム運行が厳しい路線の代替

 しかし、トラムの敷設が難しい地域もある。チェコ共和国は国土全体で起伏が比較的少なく、標高の高い山はなく平野部が多いが、そんなチェコにおいて、プラハは町全体に起伏が多い、同国では珍しい地形となっている。

 大きく曲がったヴルタヴァ川周辺は渓谷を築き、崖のような場所も多数存在する。プラハ市内で運行されるトラム路線の最急勾配は、あの箱根登山鉄道の80‰(パーミル)を超える90‰に達するが、これは補助装置を伴わない鉄車輪で登坂できる限界値に近い。

狭い住宅街で運行するために導入された10m級の短尺車両も多く見かける
狭い住宅街で運行するために導入された10m級の短尺車両も多く見かける

 そこで白羽の矢が立ったのが、電気で走行するため環境にも優しく、しかしバスと同じゴムタイヤなので勾配における粘着性能が高いトロリーバスであった。

 大昔にいったん全廃された、プラハのトロリーバスが最初に復活した58番という路線は、連続急勾配によって丘の上の団地へ至る、まさにトロリーバスに最適な路線であった。

 その後、2番目にプラハ空港へ向かう路線には、収容力を向上させるために全長24m以上の3車体連接車両が導入された。今後も複数の路線で、トロリーバスへの転換が計画されている。

■進化するトロリーバス

 トロリーバスのメリットとデメリットは何か。トロリーバスは環境に優しい、というのは当然のこととして知られている。

 前述の通りトラムでは運行が難しい、勾配区間や狭い路地などへの乗り入れも可能な点がメリットとして挙げられる。

 一方でデメリットは、トラムよりは低価格とはいえ、集電のための架線敷設が必要で、万が一停電した場合は運行不能になる恐れがある。

 もし架線から集電装置が外れてしまったら、運転手は下車して集電装置を架線と接続させなければならない。

 だが、プラハに導入されたトロリーバスは、いずれも大容量バッテリーと組み合わせており、無架線地帯でも車両を動かすことができる。

無架線地帯を走行するトロリーバス。平坦区間はかなり長距離の無架線区間が存在する
無架線地帯を走行するトロリーバス。平坦区間はかなり長距離の無架線区間が存在する

 これは停電時の緊急用のためのものではなく、路線の一部が無架線となっていて、バッテリーだけで走行する区間が設けられているのだ。

 無架線地帯の動力源として、以前は発電用小型エンジンを搭載している車両が多かったが、近年開発が進んだ大容量バッテリーのお陰で、これらがエンジンに取って代わられた。

 途中区間で架線敷設を減らせば、工事費用や期間を大幅に減らすこともできるし、景観に考慮することもできる。まさに技術の進歩が、より高度なトロリーバスを実現できたと言えよう。

 ただし、プラハ市は将来的に100%電化を目指しているのか、という質問に対し「それはない」と回答している。

 プラハ市の見立てとして、おおよそ2/3の車両をディーゼル車から置き換えたトラムやトロリーバスなどへ転換するが、残りの1/3は将来的にもディーゼル車で残すとしている。

 昨今、戦争などでエネルギー事情が不安定となり、大きな社会問題となったが、すべて電化した場合、もし電力供給が止まってしまったら、市内交通は麻痺することになる。

 プラハ市は、有事の際にも最低限の運行が行えるよう、様々なオプション選択を可能とするよう、動力源の異なる車両を維持していく考えを示した。

 闇雲な環境性能のゴリ押しではなく、危機管理の行き届いたバランスの良い施策と言えるだろう。

【画像ギャラリー】進化を続けるプラハ市のトロリーバス(5枚)画像ギャラリー

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