いわき会津若松線は福島県を東西に貫く49号線を走行し、県内路線3社で運行。その常磐交通便が2階建てバスを使用し話題となった。しかもただの2階建てではなく1階はラウンジで、画一的な長距離バスではなく、乗って楽しい長距離バスの言葉にぴったりの路線だった。一時期、観光バスで人気を博した2階建てバスは、このように次第に幹線バスに移行するなど二次利用されることになった。
執筆/写真:石川正臣(バスマガジンvol.86より)
喫茶サービススタッフも乗務する“ツーマン”のスワン号
浜通りの中心地、いわき駅に堂々と会津若松行きが到着する。「待ってました」といわんばかりに乗客たちは笑顔で乗り込んでいく。遠足へと出発する小学生たちの観光バスからも厚い目線が集まる。周囲の路線バスを見降せる目線で、ちょっと誇らしい気分のバスハイクが始まるシーンだった。
1階はゆったりくつろげるラウンジ。ドライバーはワンマン運行だが、BGMが流れるさわやかなムードのラウンジでは、喫茶サービスのスタッフも乗務している。
郡山では開業してまもない東北新幹線をくぐり抜け、ロータリーへ着車。ここで多くの乗客が降車し、また待っていたとばかりの乗客が乗車する。再び49号線の快走が始まる。
磐梯熱海温泉を横目に猪苗代湖が見えてくれば、しばらくはこの路線のハイライトだ。左に湖が見え、この車両のマスコットネームとなっている「スワン」、白鳥も飛来している。海水浴ではなくコスイ浴(湖水浴)なんて言葉を耳にしたのも、ここ猪苗代湖が初めてだった。
右に磐梯山をいただき、その向こうには秋には美しく紅葉とを彩る五色沼がある。山の姿に見とれると野口記念館に到着。ここで途中下車する人は多い。当時は高速でなかったので気軽に途中下車もできた。
ダブルデッカーには200円の追加料金が必要だった!?
このような美しい自然環境下の中で野口英世が生まれ育ち、世の中に貢献した源の場所としてふさわしいという気持ちになる。
峠を越え、会津盆地に入り込んで行く。下り坂となれば城下町風情あふれる会津若松だ。市内の交通量の多い狭い道をゆったりと走れば、やがて終点の会津若松駅に到着となった。
この時代、3社とも共通していえたことは、当時の主たる収入は観光バスであったということ。そして2階建てバス乗車には追加料金として200円が必要だった。
この路線は皆観光バスのおさがりであり、前述の通りスワン号も同様ではあったが、その後の高速道路の普及でほぼ全線高速道経由となり、売り上げも倍増し便数も増えた。さらに新車も導入され、3社とも関西、関東、新潟や仙台そして県内高速など路線数も大きく増大した。
単なる行楽ばかりでなくビジネスなどにも多く利用されているが、当時でもリピーターたちには200円支払う2階建てバスとはいかがなものに感じていたのだったろう。
とはいえ、県内高速路線の中のパイオニア路線、この路線が土台となり基本となった功績は大きい。当時、景色や乗り心地を大いに楽しませてくれたこの路線を忘れないでほしい。
・データ
『スワン号』(常磐交通)
いわき駅〜郡山駅〜猪苗代〜会津若松駅
◎相手会社■会津乗合/福島交通