バス業界に実際に入り経験をしないとバス運転士問題の記事は書けないことを悟った記者は、フジエクスプレスに臨時運転士として入社した。一人前の運転士になれるかどうかの「バス運転士日誌」連載は、早いもので空車教習を終える日がやってきた。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
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■運行管理者から通告を受ける!
4月にフジエクスプレスに入社して1か月が経過し、初のお給料をいただいたことは既報の通りだが、5月に入り到着点呼の際に運行管理者から「空車教習終了予定」の通告を受けてしまった。空車教習とは指導運転士とマンツーマンでバスの運転をして、運行経路や停留所の位置を覚えて基本的な運行ができる(かどうかは記者には判断できないが)までの訓練である。
この訓練が終了すると、ステージが営業教習に変わる。営業教習は現役運転士が運行する実際の仕業に入り、教習生がその指導を受けながら運行を担当するのだ。
どのバス事業者も同様の訓練手順で独り立ちするのだろうが、記者は臨時運転士なのである程度限られた路線しか担当しない。よって覚える路線も多くなく、意外にも早く空車教習が終わったという印象だった。
■気さくな運行管理者がプレッシャーと明言する!
空車教習終了の通告をした運行管理者が「もう覚えましたか? 大丈夫でしょう?」と問われ「大丈夫です」と答えてしまった。記者自身は大丈夫だと思っているのは「長い回送経路と運行経路と停留所の位置関係、東京都区内独特のライン取りを把握し、営業運転で必要になる放送装置の操作とアナウンスができる」という意味だった。
気さくな運行管理者は「では、プレッシャーを与えますね!」とわざわざ前置きして「空車教習は終了です!」と告げたのだ。もっとも大丈夫ではない、覚えていないと主張してもみっちり指導してくれた指導教官が四六時中見ていたので、いまさら覚えていないは通用しない。
わざわざプレッシャーと言ってくれたのは、新しいステージに変わるので新たな不安があるだろうとのベテランによる経験上の思いやりなのだろうが、確かに今までとは異なる不安がないと言えばうそになる。
■いつの間にか身についていた運転
1が月強の空車教習でバスの運転は概ね身に付いていると自覚している。これはただ運転できるという意味だけではなく、旅客を乗せてのアクセルワークやブレーキング、法律以上に厳しい会社のルールを遵守することや、乗用車と同様に運転できる車両感覚が身に付いたという意味だ。
これは空車教習でペーパードライバー同然の記者を指導してここまでにしていただいた教官の指導の賜物であることは言うまでもない。よってバスを走らせる際にぶつけはしないか、こすりはしないか、バス停に付ける際にポールにミラーを当てないか、営業所での車庫入れで事故りはしないか等々の不安があったのが、まったくと言っていいほどなくなっているのは事実だ。
■新たな不安が発生する
そして営業教習に移行する上で新たな不安はやはり、これまで経験のない旅客対応である。接客が不安ということはそれほどない。しかし昨今ではバス業界に限らずカスタマーハラスメントの問題が顕著になっており、東京都では条例まで制定して対策をしているほどなので、その部分は不安ではある。
カスハラに対してバス事業者がどのように対応するのか、運転士はそのように対応すべきなのか、理不尽な要求やクレームに対してバス事業者が運転士を守ってくれるのかどうか。このあたりは実際にそうなってみないと分からない部分でもある。
別にカスハラを経験してみたいわけでは決してないのだが、そんな期待をしなくてもおそらく早い機会に経験することになるだろう。今はそういう世の中だからである。
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