箱根への旅行は古くから、小田急ロマンスカーなどの鉄道でなくバスで行くという選択肢があった。東名高速道路を往く、古くから運行されている便が実に楽しく便利で、常連客も多い人気路線だ。そんな需要に合わせ、定員の多い車両、即ちダブルデッカーのエアロキングで運行された。
●小田急箱根高速バス箱根線 新宿駅西口―御殿場駅―仙石高原―箱根桃源台
小田急箱根高速バス
乗車・撮影日2005年10月
(記事の内容は、2021年7月現在のものです)
文・写真/石川正臣
※2021年7月発売《バスマガジンvol.108》『思い出の長距離バス』より
今では高速道路の延長で高速バスは常識に
もう50年近く前のこと、行楽シーズンたけなわの週末のある日、箱根へ行くことになった。箱根といえば小田急ロマンスカー。しかし乗り場の特急券売り場に行くとすでに満席だった。ロマンスカーに乗車できないとなると、通勤電車で時間をかけて行くことになる。
しかし「小田急ハルク前から出ているバスがあります」と案内された。その時代バスで遠出なんて考えられなかったが、定期バスでは同じ新宿から中央高速で富士五湖方面へ、そして東京からは東名高速を走る国鉄の便が運行されていた。それでも箱根にバスで行くことができるとは想像できなかったのだ。
高速道路が次々と延長され、現在のように長距離バスが全国を走り回るとは、当時は思いもよらなかった。
時代は変わり老舗の路線には固定客も多くなり、便数も増え、一部ダブルデッカーで運行する路線にまで成長した。ダブルデッカーは輸入車からはじまり、1984年以降に国産車が量産され始めると観光貸切バスで人気を呼び、台数もどんどん増えていった。
観光バスの次は定期便としての高速路線バス、利用者が多いダイヤでは、定員が多い車両を使用する需要に応えられる存在となった。
期待を込めて乗り場へ向かい、そして箱根へ!!
さて、いざ乗車しようと時刻表をチェックしても、「2階建て」の文字が見当たらない。利用実績、予約状況の判断で運用が決まると聞いて、中秋のシーズンたけなわの休日の朝、当時の乗り場だった新宿小田急ハルク前に到着した。
常連客らしき人や、リュックを担いだグループ客が次々とバスに乗り込むが、それはいつもと同じバスだ。係の人に聞いてみると、当日のすべての運用は決まっていて、ダブルデッカーもこの後、まだかなり時間があるがやって来るとのことだった。
そんな情報を教えてもらい、せっかくなので、座席数が多いだけにまだ空席があるダブルデッカーの乗車券を購入して、気長に待つことにした。
そろそろ発車の時刻ではないか……。ほぼ三菱ふそうのエアロバスが並んでいる中、同じふそうのエアロキングがその大きな姿を見せた。
バスがたくさん待機している中からの眺めは悪くない。さすがに2階席はハイアングル。歩道橋では接触しやしないかと無駄な心配をしながら眺めを楽しんだ。
交通標識や高速料金所もいつもより高い位置から見下ろす。首都高速から東名高速へ、神奈川県に入ると天気に恵まれ、前方遠くにすでに雪をかぶった富士山が見える。その富士山がどんどん大きくなってくる。
高速を降りて、乙女峠バス停で多くの人が降車し、目的地に向けて歩いていく姿を見ると、富士山を目の前に頂いた箱根に来たと実感。秋のススキの穂に見とれ、坂を下りれば青な芦ノ湖が迎えてくれた。
現在は国産2階建てバスは生産されていないが、スカニアのダブルデッカー「アストロメガ」が国内向けに販売されている。この新宿からも何社かが需要に応じて、新税のスカニア2階建てバスが運行されている。
乗り場も一新したバスタ新宿。先日、新しいターミナルから、新しい大きな2階建てバスが西へ向けて走り去っていく姿を見た。このエアロキングに続く新世代のバスが、今後も活躍を続けてくれるだろうと思うと、嬉しい気持ちになった。
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