イタリアの主要な港湾都市であるトリエステ。アドリア海に面し、スロヴェニアまでわずかな距離に位置するこの町は、その周囲の地形なども相まって、少し異国情緒のある魅力的な町だ。
文・写真:橋爪智之
構成:中山修一
(イタリア・トリエステを走るバスの写真付きフルサイズ版はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)
■トラムもあるが主力は路線バス
トリエステの人口は約20万人と、イタリア国内では16番目で、高速列車によってイタリア各都市との間が結ばれている。
日本人観光客が積極的に訪問する町ではないが、ヴェネツィアからも列車で約2時間の距離で、日帰りで散策するにはちょうど良い大きさの町だ。
トリエステというと、鉄道趣味界隈では人気となっているトラムが有名だ。トリエステの市街地に路線網は無く、ここは路線バスの独壇場なのだが、山の上のオピチーナという町まで、トラムが走っている。
なんだ、別に珍しいことではないではないか、と思うかもしれないが、トリエステは坂の多い町としても知られており、バス以外の公共交通機関の運行は難しいだろう、と思うかもしれない。
しかし、ここのトラムは急勾配区間で、ケーブルカーのような滑車を連結し、そのまま山上まで車両を運んでしまうのだ。
その勾配はなんと最大260パーミル!! 1000メートル進むと260メートル上るという超急勾配で、もちろんケーブルがなくては上ることが不可能だ。事故で長らく休止になっていたが、2025年に9年ぶりに復活を果たし、ファンの注目を集めている。
だが、トリエステのトラムはこの1つの路線だけ、市民の生活の足として支えているのは、他ならぬ路線バスなのだ。
路線バスは、先述のトラムと共に、トリエステ・トラスポルティ(トリエステ交通/トリエステ市が株式の52.49%を保有する半官半民の企業)によって運営されており、トラム、市内路線バス以外に、都市間路線バスや一部のフェリーなどの運営も行っている。
2019年は、住民の数に対する公共交通機関の路線距離数がイタリアで第3位(57.6キロ/全国平均では29.5キロ)となるなど、公共交通機関が充実している。
以前はトリエステ市街地にも、トラムやトロリーバスが運行されていたが、コストや効率性の面から、1970年代までにすべて通常の路線バスへ置換えられている。
■多種多様な車両が活躍
路線バスの運行は1933年に開始され、1935年に開業したトロリーバスより先に営業を開始。バス以外の他の交通機関を含めた輸送人員は、年間6000万人となっている。現在は66路線が運行され、271台の車両が使用されている。
興味深いのは、台数の割に多くのメーカーを採用している点で、地元イヴェコやメナリニバスはもちろんのこと、マンやメルセデスといったドイツ車や、珍しいフランスのHeuliezというメーカーも採用している。
大半は12m級の標準車体で、他の欧州都市で見られる連節車両は全体の10%以下と少数派になっている。
連節車が少ない理由は、トリエステの市街地を見ればすぐに分かる。港に近い低地部分は、比較的平坦な地形となっており、市街地の道路も非常に幅が広く走りやすそうだ。
だが、少しでも山側へ入ると様相が一変する。急勾配の連続となり、しかも道路幅は急に狭くなるのだ。
トリエステ・トラスポルティは標準、連節ボディ以外に、10メートル級の中型車やミニバスも保有しているが、とりわけ急な斜面に張り付くように作られた市街地では連節車の運用は難しく、中型車やミニバスが威力を発揮する。
勾配というと、長崎市のバスを思い出すが、長崎はすり鉢状の地形で、山から下りていくと幹線道路や長崎市電に行き当たる。
トリエステの場合、すり鉢ではないが、平地部分の幹線道路に連節車を運行し、それ以外の山道では標準ボディや中型車を使用しているようだった。
一方で2024年、トリエステ・トラスポルティは中国メーカーのユートン(宇通客車/Yutong)から、電気バスを13両導入している。
まだ導入したてで、車体もピカピカであったが、今後導入を進めていくのかが気になるところだ。とりわけ、急勾配が多いトリエステの町で、EVの得意分野である強力なトルクをどの程度発揮するのか注目していきたい。
【画像ギャラリー】非連節ボディ多め! トリエステのバス(12枚)画像ギャラリー
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