京王電鉄バスは、新興IT企業の空(東京都千代田区)と提携し、高速バス座席管理システム「SRS」に、「ダイナミック・プライシング」(運賃のリアルタイムの変動)機能を本格的に導入すると発表した。
文:バスマガジン編集部
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データ分析により、高速バス運賃がリアルタイムに変動
京王電鉄バスは1980年から、高速バスの座席管理システム「SRS」(一般利用者向け予約サイトのブランドは「ハイウェイバスドットコム」)を運営している。
このたびダイナミック・プライシング・システムを提供する株式会社「空」の「Magic Price」とデータ連携し、SRSで座席管理している高速バス路線の予約状況に基づいて最適な運賃額をリアルタイムに、かつ自動的に設定できるようになる。
京王がアルピコ交通、長電バスらと共同運行する新宿・池袋~長野線と、宮城交通と共同運行する新宿・渋谷~仙台線から、順次活用を開始する。
「SRS」は、名鉄バスをはじめとする東海、北陸地方の各社や、西日本鉄道など九州内の各社ら計45社(青森駅前から鹿児島中央駅前まで全国の発券窓口や予約センター)に導入されており、京王以外のバス会社も新機能を活用することが可能という。
「バスタ新宿」立ち上げの経験から導入を決断
高速バスの運賃は、2012年にスタートした「新高速乗合バス」制度において、事前に国に届け出た範囲内で、自由に変動させることが認められている。営業所や予約サイトにその旨を掲示すれば、予約受付中の便についても、予約状況に応じて金額を変更することが可能だ。予約成立後に運賃額が変更となっても、予約時の額が適用される。
京王電鉄バスの福島八束・取締役運輸営業部長は、初代所長として「バスタ新宿」の立ち上げと運営に携わった経験を踏まえ、「高速バスの需要は、どうしても特定の曜日、時間帯に集中する。満席が確実な便とそうでない便で価格に差をつけ、乗車率を平準化することが重要だ」と判断したという。
「しかし、(夜行路線ではなく)便数が多い昼行路線において、担当者の判断で運賃額を変動させるのは作業量が膨大」だと、予約データを分析し運賃額を推奨してくれるシステムの活用を決めた理由を話す。「Magic Price」は、ホテルなど他業界の導入実績はあったが、高速バスでは初めてで、導入に向けて両社で調整を重ねてきた。
「コロナ禍」で、高速バスの収益性に注目集まる
12月10日に京王電鉄バス本社で行われた発表会で、「Magic Price」を提供する空の松村大貴・代表取締役兼CEOは、「ホテル専用のダイナミック・プライシング・システムを提供してきたが、今後は高速バス、さらには他の分野にもサービスを広げていきたい」と展望を話した。
発表会には成定竜一・高速バスマーケティング研究所代表も登壇し、「高速バスの成長を支えてきた地方部の沿線人口は減少が続くうえ、『コロナ禍』が収束しても需要が完全に回復しない可能性もある。
『乗客減→コスト減→品質低下→さらなる乗客減』スパイラルを防ぐためにも、高速バスの収益性を追求することが求められる。ダイナミック・プライシングは、そのための手法として重要だ」と解説した。
さらに本誌の取材に、「ほぼ100%がウェブ予約、事前決済の夜行路線と違い、高頻度運行の昼行路線は、車内での運賃収受や当日の乗車便変更にも対応しないといけない。数年かけて、運賃体系や現場のオペレーションの対応を進めてきた京王の戦略性に敬意を表する」と話した。
「ダイナミック・プライシング導入は、収益最大化を目指す経営側の戦略と、予約センターやバスターミナル、乗務員らの現場オペレーションとのバランスがカギ」だとし、全国のバス会社に対してダイナミック・プライシング導入に向けたコンサルティングを強化するという。