いまからほんの数年前の2010年代まで、京都を代表する京都市交通局(京都市バス)では、全国各地で方向幕車が無くなりつつあるこの時代に方向幕車が増えている、という現象が見られていた。
懐かしいバスの方向幕を紹介する「方向幕の世界」では、かつての京都市バスを例にとり、昔ながらのモーターでスクロールする方向幕をご紹介する。
文/写真:高木純一(バスマガジンvol.86/2017年11月27日発売より)
大手事業者で手動ハンドル式が残っていた最後の事業者!?
京都市バスの方向幕は古くから東洋ライト工業製の穴検知式表示機を採用し、前面と後面は分割式、側面は系統一体型、というほかに例のない仕様の方向幕であった。
前面は大型化に伴いワイド幕になったが左側が行先、右側が系統番号、という仕様は現在も引き継がれている。側面幕も同時に大型化されたが、どちらも比較的草創期にワイド化された。
系統番号が中央部に記されているのは当時の仕様だ。後面幕は大型化されずに残っていたが、前面と異なり左側が系統番号、右側が行先と真逆になっているのが面白い。恐らく乗降扉側に系統番号を見やすく表示しようとした工夫と思われる。
1990年代からは5点幕から前面と後面は系統番号と一体になり、他車と変わらない3点連動幕となったが後面幕は前面の大型サイズと同様の物を使うようになり、全国的に見ても珍しい後面大型幕仕様となっている。
この頃から室内に付いていた手動用のハンドルが幕収納箱の内部に移された。これは本来方向幕は3点連動なのだが異常により1か所だけ違う表示をした場合、この手動ハンドルで位置を修正していたのである。大手事業者で手動ハンドルが残っていた最後の事業者だったと思う。
一時期LEDを導入した時期もあったが戻ってしまった……
2000年に近付くと方向幕の地の色を一新、今まで白幕だったのが「紫幕」という京都らしいシックな色使いとなった。ただし臨時系統や回送車表示は従来の白幕のままである。
なお、系統番号の色は循環系統(200番台)が設定された時に循環系統はオレンジ、運賃均一系統は水色、多区間系統は白色に現在も統一されている。この紫幕化と同時に前面と後面の幕を共通にし、後面は左側が系統番号の幕だったが紫幕になってから右側に系統番号が書かれるようになってしまった。
5点分割幕車が全滅されようとしていた頃に途中どまりの意味である「入庫」の表示が「まで」の表示に変わった。これは循環系統などで北大路バスターミナルや京都駅等で循環運行を終える車両に表示され、京都市バス独特の表現であった。
そして2014(平成26)年にはさらに筋カラーと呼ばれる市内の縦の通りを色別に分け、6つの色で表現する幕に更新され、デザインも黒幕で近代感のあるものとなった。
ちなみに京都市バスは一時期、ハイブリッド車を中心にLED方向幕車を導入した時期もあったが、系統番号の色がわかりづらいため翌年の新車からまた方向幕に戻ってしまったというエピソードがある。今でもQKG-車以降の新顔MP38系と新型エルガの幕車は大手はここにしか存在していない。
これも京都市バスにしかない特徴なのだが、最終バス(終バス)や1本前のバス(終前)は赤・緑の白熱球で表示を行うが、前面と後面の系統番号部分だけは必ず蛍光灯表示になっている。
系統番号の色にこだわりぬいている事業者ならではの装備といえる。フルカラーLEDを採用する事業者が増えてきたが京都市バスもフルカラーLED採用の可能性はあるのだろうか、気になるところである。