第17回 羽深式の方向幕【特集・方向幕の世界】

第17回 羽深式の方向幕【特集・方向幕の世界】

 古き良き、LED表示器が登場する以前の幕式だったバス方向幕をアーカイブ記事として紹介していくこのコーナー。今回は羽深式方向幕を製造していた「株式会社羽深(はぶか)製作所」の製品を紹介する。

 同社は、鉄道・バスの方向幕巻き取り機のメーカーとしては、新技術を続々と開発・採用してきたことで有名なメーカーだ。

文/写真:高木純一
※2018年1月27日発売「バスマガジンVol.87」より

【画像ギャラリー】画期的なシステムを持つ羽深式の方向幕の方向幕たち


幕のたわみを防ぐ構造を持つ方向幕巻き取り機の革命児!!

高速バス用の巻き取り機は極めて希少で検知器が右側に集約されている。写真では見えないが灯具類が内蔵されている
高速バス用の巻き取り機は極めて希少で検知器が右側に集約されている。写真では見えないが灯具類が内蔵されている

 羽深式の方向幕は東京都にある「株式会社羽深(はぶか)製作所」が作る巻き取り機で、スプリング式と呼ばれる鉄道用表示機に見られる巻き込みバネによる幕のたわみを防ぐ方法を確立した、方向幕巻き取り機のパイオニアである。

 バスの方向幕巻き取り機としては早い時期に番号設定式の方向幕指令機を実用化させたことで、車内放送テープと連動して番号指令ができるシステムを構築し、早くから全自動化を推進してきた。他社の製品とは異なり、製造終了まで箔式の読み取り方式などほとんどが変わることなく世に出回り続けていた。

 メインユーザーとしては東京都交通局があげられる。まもなく最後の幕車が引退するが、最期まで幕式の全車両が羽深式の巻き取り機を搭載していた。

 また東京都交通局の中古車には必ず羽深式の巻き取り機が付いたまま第二の職場に向かっていき、羽深式の巻き取り機をそのまま使う事業者も少なくなかった。それ以外の事業者としては西東京バス、京浜急行電鉄バス、東急バスがあり、以前は西武バスや国際興業バスでも使用されていた。

 検知方式は「箔式」のみで、幕を正面から見て右側の裏に絆創膏程の大きさの銀箔シールを貼ってその箔を読み取るスタイルだ。これ以外の読み取り方式は無く、最後までこの方式は変わらなかったため、当時からすれば完成された最先端技術であったことがうかがえる。ちなみに左側に貼ってある箔は幕切検知用でこれ以上巻けないようにするためのいわばストッパーの役割をしている。

鉄道用巻き取り機も作っているメーカーならではの構造も

西武バスの両面表示幕。車内側だけが上下逆さまに印字されている。検知箔は底部に当たる部分に変更されている
西武バスの両面表示幕。車内側だけが上下逆さまに印字されている。検知箔は底部に当たる部分に変更されている

 検知機能を装備しない「目視電動」仕様を採用している事業者も多く、京浜急行電鉄バスの路線バスの側面幕は運転席からの目視電動式であった。また箔式の検知方式でも番号設定式とコマ送り仕様の2種類があり、番号設定式は放送装置との連動による全自動式となっている場合が多い。

 さらに蛍光灯類と巻き取り機が一体になっているのも特徴で、機種によっては蛍光灯用の安定器(インバーター)も一体になっている。これは鉄道用巻き取り機も作っているメーカーならではのことだと感じる。

 特殊な例として「車内・車外一体型巻き取り機」がある。これは西武バスの一部の車両で採用された事例で、方向幕に車内用の停留所が書かれたコマと車外用の行先・経由地の書かれたコマが印字されており、1コマが2倍近くの内容(情報量)になっている。

 幕だけで見てみると車内側だけが上下さかさまに印字されているが、断面でいい表すと凹の字のような構造になっている。これと似たような構造で東京都交通局の超低床バスの車内に「停留所表示幕」が付いていた。これは完全に車内向けのもので、両側に停留所の一覧が表示されるものであったが、試験採用のみで終わってしまった。

 そんな羽深式の方向幕巻き取り機を搭載した車両が終焉に近づいてきた。バス方向幕巻き取り機メーカーとしてはもっとも早く表示機の製造を終了したが、画期的な方向幕システムを構築させた輝かしい歴史を今ここに刻んでおきたい。

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