古き良き、高速バスが百花繚乱だった時代のルートや車両をアーカイブ記事として紹介するこのコーナー。今回は2つの海を結んでいた中国JRバスの“広浜本線”だ。
「愛読書は時刻表」と言う人がいるが、確かに眺めているだけで時刻表は楽しい。そんなことを思っていたある日、巻末のバスの時刻が多く掲載されているページに、国鉄バスが都会でもない[浜田]という島根県の土地を朝3時40分発車する、広島行の便があるという情報が目に入った。
●車両データ
ルート/広浜本線[浜田〜広島]
事業者/中国ジェイアールバス
乗車日/1988年5月
執筆・写真■石川正臣
※2020年7月発売「バスマガジンvol.102」より
高速バスアーカイブ第16弾
深夜に到着、未明に発車。時間を有効に使える設定の運行だ
都会の過密ダイヤではないにも関わらず、初便は実に早い。都会でも4時台はおろか5時台だってほとんどない。しかし地方在住者にとって都会への日帰りというスケジューリングは大切なのだ。
そしてもう一度確認すると、広島から最終便の浜田到着は1時51分!! 広島そして新幹線の利用で、大阪でも東京でも現地での有効時間を長く使えることがメリットだ。通称「国鉄バス広浜本線」は、陰陽連絡として戦前に運行開始した長距離路線でもあった。
浜田駅で深夜1時50分近くになり、今では懐かしい国鉄バス色の紺色のバスが静かな夜中に到着し、数人の乗客が降車。それぞれ帰宅する姿が見えた。折り返し乗車するまでは2時間近くある。
当時ネットカフェもコンビニもない。地球温暖化の影響で、今では5月の夜中は暖かくなったが、当時はまだとても寒く辛かった。そんな中でただ発車を待ち続けたものだった。
そして夜の闇の中、待望のバスがやって来た。いそいそと乗車すれば、暖かい車内はとてもありがたい。到着時の降車客同様やはり数人が乗車した。
発車すれば日本海を背にバスは南下する。町も遠のき、交通量少ない真っ暗な林の中を、スピーディに走る。
早朝便ならではの乗り心地の良さ。運転士の技が光る!!
やがて広島県との県境近くまで来ると、狭隘で急なカーブが現れるが速度落とすことなく広島を目指す。急ブレーキ、急ハンドルなく車内で寝ている人を起こすこともない。
ハイデッカーでもなく、12mフルサイズより若干短い車体のせいか、優れたハンドルさばきが可能なのだろうか。いや、そうではなく熟練された腕と、明かりが全くなくても全区間の道路状況を完全把握しているドライバーの技量のためであろう。
坂を下りるときに見える朝陽、大朝で朝を迎えた。地元・浜田行きの一番バスはまだ発車の兆しはなく駐車していた。大朝だけでなく途中からも少しずつ乗ってくる乗客は確実に存在し、大切な生活の足であるのだと実感した。
広島市内まで来ると陽は完全に登り、島根県を夜明け前に発車したとはだれも思わないであろう広浜本線は、次々と広島駅新幹線口に吸い込まれて行くほかのバスとともに到着した。
今では浜田自動車道の開通で、高速道を利用することで広島までは1時間以上短縮できるようになった。未明に発車する便はなくなり運行本数も倍増し広島電鉄、地元石見交通も加わった。今後の発展も期待できる楽しみなルートだ。
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