2010年に最後の1台がラインオフし、惜しまれながらもその生産が終了した名車、エアロキング。現時点で最後の国産ダブルデッカーとして、バスファンはその名を胸に刻んでいる。
エアロキングの人気は、何も「最後の……」だからというわけではない。その隙の無いフォルム、頼もしい3軸、そして勇猛な走行性能と眺望のいい2階席など、その魅力を上げれば限りが無いほど。このエアロキングを運転したくてバス会社に就職したバスドライバーも少なくないという。
そしてこのたび、三菱ふそうバスの聖地・三菱ふそうバス製造において、1台のエアロキングが発見された(!?)というビッグニュースを頂いた。
(記事の内容は、2022年9月現在のものです)
取材・執筆/近田 茂、取材協力/三菱ふそうバス製造
※2022年9月発売《バスマガジンvol.115》『三菱ふそうエアロキングを聖地で試乗』より
■14年ぶりの個体と再会。やはりキングの持つオーラは凄い
初代エアロキングの誕生は1985年。さらに新型となって復活したのは2008年のことだった。エアロキングは当時において国産唯一のダブルデッカー、つまり2階建て観光・高速バスとして君臨していた。
惜しまれつつも2010年に生産終了。バスファンの記憶に残される一方、はとバスのオープントップバス、ウィラーのレストランバスなど、今も多方面で現役稼動を続けている。
堂々とかつ流麗な外観。前後4輪操舵機構を備えた3軸構造を採用。2階席はスーパーハイデッカーでも太刀打ちできない見晴らしの良さを誇る。
そして最大72座の客席を持つ豪華高速クルーザーとして、高効率輸送を担う象徴的な高速バスとしても重宝され、その人気は侮れない。まさに孤高の存在なのである。
2008年に天王洲アイルで開催された晴れやかな発表会に出席した記者も、特設の停留所におごそかな雰囲気を漂わせながら到着した“キング”を目の当たりにした時の衝撃は、今もハッキリと覚えている。
同社創業75周年を機に、新型エアロクィーンを投入した翌年の事だっただけに、キングの投入はバス業界で高まる期待を象徴している様にも感じられた。
前置きが長くなったが、その発表時に登場した白い車両に14年振りの再会。富山県の生まれ故郷で単独占有取材の機会に恵まれた。
何ひとつ色褪せていない存在感は過去の遺産を眺めると言うよりも、再々復活の幻影を見る様な、不思議な感覚にとらわれてしまう。
■同社に残る唯一のMT車。運転免許試験用車とはビックリ
取材車両は量産直前の最終試作車。細部が手直しされて完成市販車がリリースされた。その後はユーザー対応などのチェック用車両となったが、経年と共にお役目終了。
しばし三菱ふそうトラックバスの喜連川研究所で眠っていた車両を、富山県にある生まれ故郷である、三菱ふそうバス製造にて徹底レストアされたのがこの白いエアロキングだった。
社員家族を工場に招待する催しを始め、様々なイベントで展示や試乗に活用すると人気が集中。イベントを華やかに彩るには欠かせない存在となったという。
レストア作業には、現在のバスとは異なる構造を学ぶ若い技術者養成にも寄与。変わった所では、所内試験路を走るために必要な運転免許試験用車両としても使用されているという。今や3ペダル/マニュアルミッション車両は唯一の存在だそう。
記者も早速試乗させて頂いた。430psだったV8の初代OHVエンジンより、さらに低回転域で大幅なトルクアップを披露する直6ターボ・320psのOHCエンジンは、発進からスムーズ。粘り強さも一級で扱いやすい。
久しぶりにクラッチを踏んでのFFシフトも、巧妙なアシスト制御でその操作感は改めて感激するレベル。フル操舵時のコーナリングも優れ、さらにシッカリしたボディ剛性とそれに裏打ちされたフットワークの良いサスペンションは、全挙動に巧みな減衰が効いて乗り心地が実に快適だ。
残念ながら復活はあり得ないというのが現状だが、グローバルな視野で市場動向が変化すれば、あるいは再々登場も夢じゃないと期待できる心地よい気分になった。
【画像ギャラリー】最終試作車を徹底レストアした三菱ふそう エアロキング やっぱりキングには王者の風格があった!!(21枚)画像ギャラリー
コメント
コメントの使い方