世界有数の観光大国として知られるスイス。九州ほどの国土に、約5000キロもの鉄道網が張り巡らされている鉄道王国となっている。ただ、もちろんすべてを鉄道だけに頼ることはできず、鉄道でアクセスできない地域へは路線バスが運行されている。そのスイスを代表する路線バスがポストバスだ。
文・写真:橋爪智之
構成:中山修一
■郵便馬車から乗合バスへ
ドイツ語で「ポストアウト」と呼ばれるポストバスは、元々馬車郵便を発祥として、1906年に運行が開始された。
当時、山奥の小さな村へは馬車が交通機関として使われていたが、それに取って代わったのがバスだった。1930年代までに、ほとんどがバスへ置換えられたが、馬車は1961年まで残っていた。
1990年代までは、スイスの地元バス製造メーカーであるSaurer、Berna、FBWといった会社が車体を製造していたが、これらには後部に郵便物を積載するためのドアが設けられているのが特徴だった。
郵便と旅客輸送を組み合わせることが特徴だったポストバスだが、双方の調整が徐々に困難となったため、次第に分離して運行されるようになり、20世紀末頃にはほぼ分離を終えていた。ただし、一部の地方郵便局への郵便物輸送は、今もバスが使われている。
■特別に許可された三音ホーン
ポストバスの特徴は、まず黄色い車体であること、車体側面に描かれたラッパ(ホルン)のマーク、そしてクラクションの代わりなどで鳴らされる「三音ホーン」だ。
黄色い車体は、ヨーロッパでは郵便車に採用されることが多く、スイスのポストバスもその名残だろう。ラッパ(ホルン)のマークは、コーポレートロゴとして車体だけではなく停留所や駅などの構造物にも描かれているが、これはバスに搭載された「三音ホーン」を表している。
三音ホーンは、見通しの悪いカーブ区間などでバスの接近を知らせるためのもので、クラクションとは異なるものだ。このタイプのホーンは、ポストバスおよび認可を受けた民間の路線バスのみに設置が許可されており、鳴らすことができる区間は決まっており、専用の標識も用意されている。
ポストバスで使われる車両は、都市部周辺用と地方路線でそれぞれ異なる。都市部など、主に平坦な区間で使用される車両は、標準的なノンステップの路線車が使用されているが、一方で山間部に使用される車両は、これらとは異なる特徴があって興味深い。
まず、今や都市部の車両では標準となったノンステップ低床車をあまり見かけず、中長距離用のステップ付き車両を多く見かける。
スイスの山間部は急な坂も多く、低床車だと車体底を擦ってしまう恐れもあるため、標準床の車両が使われることが多いようだ。
また山岳路線の場合、停留所間が長く、しかも勾配とカーブが連続するため、着席乗車が原則となっていることから、一般路線車より座席数が多い中長距離用の車両が使われる理由となっている。
■色々なものが外付けできる
ポストバスの中には、車体後部にスキーなどの荷物を載せるキャリアや、荷物用のトロリーを牽引している車両も見られる。
ハイデッカー車と異なり、標準底の車両は車体床下にトランクがないため、大きい荷物はここに積むことになる。一部の路線には、自転車積載用のキャリアもある。レジャー客が多い、スイスならではの装備と言えよう。
平坦な区間専用ではあるが、動力のないトレーラーを連結している路線もある。永久固定で、12mの標準車体の後部に6mの短い車体を接続した連節バスと異なり、標準車体のバスとほぼ同じサイズのトレーラーを連結するもので、収容能力はバス約2台分を誇る。
閑散時間帯はトレーラーを切り離し、通常の単車体で運行することもできるため、需要が変動しやすい観光地の路線で威力を発揮する。こうした連結バスは、スイス以外にドイツのミュンヘンなどでも見られる。
山間部の鉄道との乗換駅では、面白い工夫も見られた。駅構内のビルの中に停留所があるのだが、そこは車庫を兼ねているようで、シャッターが設けられている。
冬場は気温も下がり、積雪もあるため、日中の営業時間帯は車庫を停留所代わりに使っているのだ。駅構内に直結しているため、天気が悪くても濡れることはないし、スペースを上手く活用した面白い構造だと感じた。
【画像ギャラリー】黄色とラッパはスイスの誇り「ポストバス」(11枚)画像ギャラリー






















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