バスのお仕事とは、なにも運転士だけではない。貸切バスのバスガイドも重要な職業だ。現役バスガイドが楽しく真剣に仕事の魅力や大失敗談を赤裸々に語る「へっぽこバスガイドの珍道中」をお届けする。今回はバスガイドの師匠的姉さんのお話である。仕事を手取り足取り教えてくれる先輩や上司という存在は皆さんにもいるはずだ。いつまでもあると思うな! である。
文/写真:町田奈子
編集:古川智規(バスマガジン編集部)
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■真っ白なバスの中で…
「アンタ、バケツに水入れてきなさい。一緒にやってあげるから!」それが、姐さんとの最初の会話だった。それは小学校の野外学習の仕事でのことだった。子どもたちはグラウンドで集会をしてバスへ乗り込んできたため、ワックスがかかっていたピカピカの床は、一瞬で真っ白になってしまっていた。
その光景を前に絶望していた私へ、姐さんは呆れたように笑いながらそう言ったのである。私は心の中で、その先輩を「姐さん」と呼んでいた。ご存知の通り、私はへっぽこガイドである。そんな私に、いつも「頑張れ、頑張れ」と背中を押してくれたのが姐さんだった。
他から見れば、私はかなり手のかかる後輩だったはずだ。それでも姐さんは、見捨てることなく色々なことを教えてくれた。今風に言えばOJTということになろうか。実際にやって見せ、その説明をしてくれ、やらせてみて、失敗や問題点をフィードバックするというおなじみの人材育成手法だ。
まさにOn the Job Trainingで、小学生が悪いわけではないのだが、当時の私にしてみれば小学生がやらかしてくれた後処理を姐さんが背中で見せて実践してくれたのである。
■宿のお茶会
私が特に好きだったのは、宿に入ってからのお茶会だった。姐さんはいつも、お菓子や飲み物を用意してくれ、自分のガイド人生や現場での経験談をたくさん話してくれた。時にはわざわざ部屋まで呼びに来てくれることもあった。
一緒にお風呂へ入りながら、仕事のこと、人との向き合い方、ガイドとして大切なことを沢山教えててもらった。また、「少しでも周りによく見てもらえるように」と、本当に細かいところまで気にかけてくれたと思う。
身長が139cmしかない私に、「そのままだとスカートが長く見えてオバチャンっぽいから、少し短くして履きなさい」と教えてくれたこともある。ガイドの勉強でつまずいた時には、2時間半も電話で付き合って話をしてくれた。
遠足の仕事では、「アンタ食べな」と、自分のお弁当を分けてくれたこともあった。今思えば、私は姐さんに甘えてばかりだった。甘えてばかりいた当時の私は、それぐらい必死だったのだ。
■姐さんの言葉
そんな姐さんが、持病の関係で、まだ国の認可がおりていない薬を飲み始めたという話を聞いてから、少しずつ痩せていった。いつもチャキチャキしていた姐さんが、少し弱って見えた。
そしてある日、姐さんの訃報を聞いた。正直、今でも信じられない。まだ一緒に仕事もしたかったし、もっと色々な話を聞きたかった。人生に迷った時や、壁にぶつかった時、今でもふと思う。「姐さんなら、なんて声をかけてくれるだろうか」
姐さんは、生前こんな言葉をくれた。「アンタは確かに手がかかる。けれど、人一倍一生懸命で負けず嫌い。それでいてしぶとい。そこがアンタのいいところ。きっと転職したら相当苦労するし、叩き潰されることもある。けれど、絶対にアンタのことを分かってくれる人はいる。だから、そういう人を大切にしなさい」私は、その言葉を今でも忘れられない。
お世話になった先輩や上司はいつかは定年で退職を迎え、あるいは最近の世情であればキャリアアップで条件の良い転職を勝ち取り、いずれにせよ自分の目の前から遠くへ行ってしまうものである。
しかしまだ現役の世代である最中で、永遠に会えない遠くへ行ってしまうということは多くはない。お世話になっていたからこそ、いつまでもお世話になれるとどこかで思っているかもしれないが、そうはならないこともある。そういう身近な存在がいるのであれば、ぜひ大切にしてお世話になっていただきたい。




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