一般路線バスの車両(路線車)を観察していると、ヤケに細長いボディのクルマに出くわすことがある。大型路線車とも雰囲気が異なるあのバス車両、一体どういった存在なのだろうか。
文・写真:中山修一
中型路線車を長くするという発想
パッと見てすぐ「長っ!!」と感じる路線バス車両を、バス趣味の世界では「中型ロング」という独自のジャンルに当てはめて扱う。
中型ロング車誕生のきっかけになったのは九州と言われる。その昔、福岡県の北九州市には路面電車が走っていた。
西鉄北九州線と呼ばれる軌道線で、1980年、85年、92年と段階的に路線が廃止されていったのち、2000年に全線が営業終了となった。
段階廃止のうち、1992年に路面電車の代替バスを走らせる計画が立てられ、その際ある程度の輸送力を保ちつつ容易に乗降できる低床バスが求められた。
当時まだ低床バスは珍しく非常に高価であったが、日産ディーゼルと西日本鉄道、西日本車体工業(西工)の共同開発によって、比較的安価かつ低床化させやすい構造の中型路線車の車体を延長するアイディアを用いてニーズに応えた。
この、西鉄北九州線の代替バス向けに製造されたストレッチボディ/シャシーの低床ワンステップ中型路線車が、後の中型ロング車のルーツになった。
バリアフリー対応で大人気に
2000年代に入ると、公共交通機関でのバリアフリー化の注目度が高まり、各地でバリアフリー対応のノンステップ路線車を導入する動きが出てきた。
ノンステップ仕様の大型路線車が登場したのは1997年なので、既に車両自体は存在していたのだが、価格面が最大のネックであった。
今日でもワンステップ車とノンステップ車とでは同一車種で500万円ほどの開きがある。まったくの新車で大量購入しようとなれば莫大な費用がかかってしまう。
そこで注目されたのが、低床化の前例がありノンステップ化も可能で、大型路線車よりも車両本体価格が安い中型路線車ベースのストレッチモデル、いわゆる中型ロング車である。
コストを抑えられる点が特に評価されたようで、2000年代前半に首都圏を含めた各事業者が中型ロング車をこぞって導入し、一大ブームになった。
中型ロング車は、それなりに利用者がいて、かつ狭い道を通る路線に向いた車両と言えるが、大型車に迫る乗車定員を確保できるため、大型路線車の代わりに使われることもあった。
ただし、定員は多めでも車幅が狭い分車内(通路)も狭くなり立席人数が限られるのと、ラッシュ時間帯では車内移動や乗降に手間取る弱点がある。
大型並の定員と言えど大型ほどは乗れない(10名くらい少ない)仕様であり、頻繁に混雑する路線では積み残しが出てしまうなど扱いづらかったようだ。
適切な路線に投入すれば一定の効果が期待できるものの、結局のところ中型ロング車の栄華は一時的なものに留まり、2011年を最後に製造されなくなった。
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