しばらく静かだったいわゆる「撮り鉄」の「マナー違反事件」が大阪で発生してWEBニュースがにぎわっている。撮りバス界隈ではあまり聞かないが、昔からある撮り鉄という趣味の世界で最近になって急にこの手の事件が増えてきたような感じすらある。その理由を考察してみた。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
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■昔の撮り鉄事情
昔はいわゆる銀塩カメラしかなく、シャッターチャンスが一度きりなのは今も同じだが現像するまで出来栄えがわからず、そのために準備は入念にしなければ失敗ばかりしていた。カメラやレンズの性能は価格に比例するので、お金を持っている「大人」が経験も機材もずば抜けていたのは確かだ。
同じ撮り鉄「現場」に大人も子供も並ぶと、経験豊富で機材も高級な大人に子供はあこがれを抱き尊敬し夢を持ったものだ。対して大人は現代のようにマウントを取るようなことはなく、子供に危険性やマナーや機材の設定を詳しく教えて「教育」をしていた。大人自身もひ弱な機材で苦労してきた経験があるので、教えるのも簡単なのだ。
そうしてその辺の知らない大人から教育を受けた子供たちが成長して「技術とマナーの継承」をしていたのだが、いつの間にか継承が途絶えてしまったのが一つの要因であるかのように考える。
■現代との比較
昔と違い客車列車は皆無で、電車と気動車しかない現代では機関車好きには貨物列車が、旅客車が好きな人は臨時列車や特別な編成を狙い撮りに行く。新幹線のドクターイエローを狙うのは撮り鉄に限らず普段は関心のない親子連れも多く集う。
カメラがデジタル化し、フィルムを消費せずメモリーカードだけが必要な世界では、予行演習が容易で、意図した画が撮れているかどうかを事前に確認できるメリットがある。不要な試し撮りはメモリーから削除すればよい。
機材の性能も向上しているので、それなりのカメラとレンズで電車の顔に自動でピントを合わせ続ける機能があれば簡単にいい写真が撮れる。事前の入念な調整や苦労がないので、昔のように技術面での教育を受ける必要がなく、空いた時間と労力をより良いポジション取りに回せるのだ。場所取りでトラブルが絶えないのもマナーの継承ができていないからなのかもしれない。
技術面での問題はないにしても、マナー面での継承が行われていないので、鉄道全般のことを趣味としている層にとっては、危険な位置や信号・軌道回路等のことを知っているからこそマナー以前に、撮影しても問題ない場所は見ただけでわかる。
しかし撮ることだけが目的の人にとってはマナーも危険も法律も「満足ができる写真」の前には軽くなってしまうのも要因のように思える。撮影技術の習得の前に鉄道敷地内には入らないという基本中の基本を勉強してもらいたいものだ。
■撮りバスの世界
翻って撮りバスの世界はどうだろうか。撮り鉄と比較して道路上を走るバスは道路脇から撮影するので、鉄道ほどの危険はない。歩道上からでもいいし、歩道橋から見下ろしても撮影はできる。速度も高速バスを高速道路わきから撮影でもしない限りは遅いので、一般論としては鉄道ほど高級な機材は必要ない。 ただし歩行者の邪魔にならないように気を付けたい。
難しさといえば、目的のバスが走行する車線が決まっていないので、他の交通との「被り」の危険性は出たとこ勝負という面はある。それに最近は行先表示がLED式がほとんどで、実は人の目にはわからないほど高速で点滅しているので、シャッタースピードが速いとうまく写らない。
概ね1/125秒以下だと大丈夫なケースが多いが、あまり遅くするとバスそのものがブレて写ってしまうジレンマがある。昼間の明るい路面で1/125秒以下で撮影しようとすると明るすぎるので、絞りを絞ってさらに感度を落とす等の工夫が必要だ。絞りのないスマホだと白飛びしてしまうのも困りものだ。
大都市のバスターミナル周辺や、景色の良い地方では撮りバスをする姿をよく見かける。有名なのはビッグサイトでのコミケだ。都営バスが大量のバスを投入して臨時便を出すが、普段は絶対に来ない営業所のバスがビッグサイトから出てくるので、コミケに行くのではなくて出てきたバスを撮影しようとする撮りバスさんが多く沿線に集まる。
線路脇なら撮り鉄さんかとすぐにわかるが、ただの道路にカメラが並ぶと何が来るのかと、知らない人はちょっと引いてしまうかもしれない。歩道や歩道橋からカメラをもって道路を狙っている人を見かけたら、高確率で撮りバスさんだと思って見守るか、「何が来るんですか?」と声をかけてみていただきたい。時間の許す限り「語り尽くして」くれるはずだ。
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