バスの運転士に対するカスハラ問題はようやく事業者も方針を策定して、有効に機能するかどうかに注目が集まる。実際に見聞きした明らかなカスハラと、その内容の大きな誤りについて知っておいていただきたい話をする。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
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■お前ら税金で~!
公営バスでよく見かけるカスハラ暴言が、公務員一般に対しての決まり文句である「お前らワシらの税金で食っとるくせに~!」だ。バス運転士に対してだけではなく、どこのお役所でも警察官に対してもよく聞く捨て台詞である。
これを言われれば公務員はぐうの音も出ないとでも思っているのだろう。こんなセリフを吐いてしまう人の親の顔が見たいものだが、概ね親の親の世代であることが多いのもまた事実だ。このセリフの文脈は公務員というくくりでは、ある意味正しいし明確な誤りでもあるのだ。
日本の公営バス事業者のすべてとは言わないが、実は税金は1円も投入されていない公営バスもあるのだ。その代表格が東京都交通局である。いわゆる都営バスは、東京都が運営していることに間違いはない。年度別で見ると赤字なのも事実である。ではその財源はやはり都民の税金! は早合点だ。
■独立採算制だった
東京都交通局は独立採算制を採用していて、東京都の一般会計とは切り離されて民営企業並みの財務で運営されている。もちろん職員は公務員であることには変わりはないので、福利厚生等の待遇は民間よりも手厚いだろうし、賃金水準も不景気状態では公務員の方が良いのは一般論としては当てはまる。
今の若い方は景気の良い時代を一切知らずに育っているので理解しにくいだろうが、景気が良いときは、民間企業の方が給与水準が高いので人事院勧告で民間の後追いをすることが多い。よって公務員人気というのは一定数はあるものの、民間の大企業の方が待遇は良かった。
東京都交通局は公務員の人数としてはかなりの数を抱えるが、都民の税金から賃金が支払われているわけではない。バス、地下鉄、日暮里舎人ライナー、都電の運賃収入や広告収入の他に、実は交通局は水力発電所を持っているので、その売電収入もある。これらの収入で運営経費をまかなっているのだ。
■赤字は税金から補填しない?
それでも赤字に陥ることはある。バス事業単体ではコロナから劇的に回復し債務を圧縮し2023年度では16億円余りの純利益を上げている。つまり黒字だ。ただし累積の赤字を加味すれば全体としては依然として赤字である。赤字は次年度に繰り越されることになる。
帳簿上はそれでもいいのだが、現実に目の前の資金が赤字ということはあり得ない。無い袖は振れないので、職員の賃金支払いを次年度に繰り越したり、更新しなければならない車両に待ったをかけることもできないのである。資金不足を補うには、どこからか現金を持ってこなければならない。いわゆる資金繰りである。
東京都が出しているお金は一般会計からの出資金(株式会社でいう資本金の一部)と、どこのバス事業者にも自治体から交付されている路線維持のための補助金だけである。それでも赤字であれば交通局は市場から調達するのである。
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