紀伊半島南部の紀州地区三重県側は熊野市となるわけだが、世界遺産「熊野古道」とはまた違う取り組みで注目を浴びている。どういうことなのか、筆者も訪ねてみたので乗りバスを交えてレポートする。
文/写真:東出真
編集:古川智規(バスマガジン編集部)
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■熊野市バスは三重交通?
三重県の南部、紀州地域。ここから和歌山や奈良へと伸びる熊野参詣道と紀伊山地の東南部、相互に20~40㎞の距離を隔てて位置する「熊野本宮大社」、「熊野速玉大社」、「熊野那智大社」の3社からなる熊野三山。
ここを巡る参道は熊野古道と呼ばれ、いにしえより「伊勢神宮から熊野三山」を詣でる巡礼者が通った400年以上の歴史と文化が息づく神聖な巡礼路である。昨年は世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」が登録20周年を迎え、様々なキャンペーンが行われ多くの観光客が訪れた。
3月に入った週末の熊野市中心部にある「河上横町」バス停からスタートだ。しばらく待っていると1台のバスがやってきた。見た目は三重交通のバスなのだが、熊野市からの委託を受けて運行されている熊野市バスである。市内に5路線ありアルファベットで系統が区別されている。
今回乗車する潮風かほる熊野古道線はD路線である。乗客は筆者1人だけである。バスと言ってもマイクロバスの三菱ふそうローザであるので、当然中型や大型の路線バスのように車内を行き来するスペースもなく立席乗車はできない。座席は2+1の5列である。
分離はしておらずベンチシートのような形だ。後部は車椅子に対応するため補助席のような形であるものと車椅子を積み込むスペースがある。バスは熊野市駅前、名勝である鬼ヶ城を通過して約15分ほどで終点の磯崎港に到着した。ここではすぐ折り返して出発するので。その間にバスの撮影をした。
■「凪あす」の舞台と後に認定される!
バスの正面は普通に見えるが側面には美しい海の風景にキャラクターが描かれている。これはアニメ「凪のあすから」という作品で、熊野市とのコラボレーションで実現したラッピングバスである。まず作品について紹介しよう。この「凪のあすから」は2013年10月から2014年4月まで放送されたアニメ作品でファンからは「凪あす」と呼ばれる。
人間がはるか昔に海の中で普通に呼吸し生活を営んでいた世界があり、そしてある時を境に海中と陸上に分かれて人間が住む世界へと変わっていった。そんな世界を舞台に7人の少年少女の揺れ動く心情を描く作品である。海の中の世界ということで、オリジナル用語や独特の世界観が人気となり話題となった。ちなみに作品中では聖地巡礼の流れになるような実在する地名等は出てこない。
放送当時、公式サイトからも作品がファンタジーであるためモデルとした場所は存在しないということだったのだが、その後ファンがこの三重県熊野市に風景や看板などが類似する場所を発見したことから、ここが聖地であるという話が広がりファンが訪れるようになった。
しばらくは沈黙を貫いていたが、3年が経過した2017年3月に公式X(旧Twitter)にて「『凪のあすから』の世界観を構築する一部のモデルとして三重県熊野市を中心とした南部を参考とさせて頂いている事を発表させて頂きます」と正式に認め、熊野市が舞台として「公認」を受けた。その後もファンが絶えず訪れるようになり、一般社団法人アニメツーリズム協会が行う「訪れてみたい日本のアニメの聖地88」に2018年から6年連続で選定された。
アニメ聖地88認定プレートと御朱印スタンプが熊野市観光協会に置かれている。放送から10年を迎えた2024年にはスペシャルイベントとして作品の声優や制作スタッフが出演したトークショーや記念展示会、舞台を巡るスタンプラリーなどが開催され多くのファンが集まった。
さらに今年は「凪のあすから×熊野市2025コラボ施策」が1月25日から始まった。新規グッズ販売やコラボルーム、コンテンツルームの公開等が行われているが、その1つがこのラッピングバスである。
作品に登場する、あるいは熊野市の風景に思えるような海を望む景色に佇むキャラクター向井戸まなかが、反対側には潮留美海が描かれている。車内に装飾はないが、アナウンスがキャラクターである潮留美海と久沼さゆの2人によるもので、ファンには必聴放送になっている。
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