バスのお仕事とは、なにも運転士だけではなく、みなさんも一度は接したことがあるであろうバスガイドも重要なバスのお仕事だ。現役バスガイドが楽しく真剣に仕事の魅力や大失敗談を赤裸々に語る「へっぽこバスガイドの珍道中」をお届けする。前回は、夢を抱いて上京した日から、再び制服に袖を通すまでの長い道のりを振り返った。そして今回のやらかしとは何だったのか。神様許して!神罰級の語り草だ。
文/写真:町田奈子
編集:古川智規(バスマガジン編集部)
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■止まった時間と動き出した日
コロナ明けとまではいかない2022年1月にようやく新人研修が再開した。しかし、開始からわずか2週間で社員寮で感染者が発生し研修は再び中断することになった。長く待ち続けせっかく動き出した時計の針は、また静かに止まってしまった。その最中に18年間寄り添った愛猫が旅立った。最期に立ち会えなかった悔しさと深い喪失は、今でも胸の奥に残っている。きわめて個人的なことなのかもしれないが、それでも現場に戻る日を信じて静かに前を向くしかなかった。
こうして失った日と、諦めなかった気持ちとの相乗効果で今があると考えている。生きていると多くの挫折を味わうのだろうが、まだ若輩の筆者でも多くのことを学んだ。筆者以上に挫折を味わった方はごまんといるはずだが、どうか自分と経験を前向きに信じてほしい。これらが原動力となりバスの中では皆さんに笑顔と独特なキャラクターで可愛がられているので、人間は自分ではわからない、気が付かないことでも何か光るものがあるのだろうと感じる。
さて、時は3月まで流れた。止まっていた時間が、ようやく本当に再び動き始めたのだ。「今度こそ」という思いとともに、再び制服に袖を通した。今回はその「再始動研修」での奮闘とへっぽこぶりをお届けしたい。止まっていた時計が動き出し、理想と現実が交差する瞬間の記録である。興味本位でも、笑っていただいても、いずれにしても一人前のバスガイド誕生にお付き合いいただければ幸いである。
■現場研修でお約束の最初の壁
研修が本格的に再開すると、待ちに待ち過ぎた夢と希望から奥から熱いものがこみ上げた。しかし待ち受けていたのは、現場ならではの「初めての壁」だった。これはもうガイドあるある、お約束の壁である。バスガイドの最初の難関とは「左右の問題」である。「お箸を持つ方が右、お茶碗は左」ということではない。貸切バスの最前列にガイドが立つ位置、つまり案内席から見える景色と、お客様から見える景色は左右が反転する。
「そんなの当たり前じゃないか!」という声が聞こえてきそうだが、「右手に見えますのは~!」と言って自然に左手を出せるだろうか?そういう話だ。自分から見て左に国会議事堂が見えているのに右手と案内しなければならない。頭では理解していても、案内中にとっさに言葉と動作が同期しない。「違う!そっちは右!」と、何度も指導ガイド(先生)の激が飛ぶ。その一言に、背筋が自然と伸びた。
そこで筆者は、一計を案じた。手の甲に「右に“R”、左に“L”」と小さく書き、覚悟を決めた。それでも迷子になることが多く、今でも駅で「右です」と案内されたのに、なぜか左に歩いてしまう自分がいる。研修で染みついた癖は、ある意味「一生もの」でガイドあるあるなのかもしれない。


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