日本からは完全に消滅してしまったトロリーバス。線路のない鉄道、つまり無軌条電車という位置付けのトロリーバスは、かつて日本でも都市部で使われていたが、徐々に姿を消していき、最後に残った黒部峡谷のトロリーバスもバッテリーバスへ置換えられ、日本のトロリーバスの歴史はここで潰えている。ところが……!?
文・写真:橋爪智之
構成:中山修一
■一周回って未来の乗り物に?
世界的に見ても、トロリーバスが近未来の乗り物として急成長しているかと言えば、そういうものでもない。
トロリーバスは、排気ガスを出さないので環境にやさしく、騒音も少ないなどの長所はあるが、一方で集電のための架線を張らなければならず、メンテナンスを含めたコストが掛かるという短所がある。
EVの台頭もあり、デメリットがある中で、わざわざ新規に採用する理由はないだろう。にもかかわらず、チェコ共和国の首都プラハでは、またしても新路線52番が開業した。
新たに開業したのは、市内バスターミナルの一つであるナ・クニゼツィから市内南部の住宅街ウ・ヴァルトロフキィまでで、同じ区間は137番という通常の路線バスが並行している。
現在は1台の車両を使っての試験的な運行で、ディーゼル車と一緒に運行されているが、問題がなければ137番を廃止し、52番のトロリーバスで完全に置き換えられる。
■路線網を伸ばすプラハのトロリーバス
すでに何度かご紹介をしているが、プラハ市は市内で運行されている複数の路線バスを新しいトロリーバスで置き換える計画が進められている。
最初に導入されたのは2024年。市内東部の地下鉄駅から郊外の住宅街までで、続いて2025年にプラハ空港から地下鉄駅までの区間が開業した。今回、暫定開業したのは3路線目で、他に陸上競技場のあるストラホフまでの路線が工事中だ。
なぜ、今さらトロリーバスなのか。そして、ゆくゆくは路線バスのすべてをトロリーバスへ置換えるのだろうか。その答えは「否」だ。
プラハ市は「環境に優しいトロリーバスを今後も積極的に導入する」としつつ、ディーゼル車を今後も運行させることを明言している。「我々は常に、あらゆる代替手段を持ち、万が一に備えるため」と、その理由を説明している。
■“オール電化”への過信は禁物!?
ウクライナの戦争以降、エネルギーに対する考え方には大きな変化が見られる。ヨーロッパでは一時期、異常なまでに環境問題が叫ばれ、自家用車に至っては2030年までに販売する車をすべてEVへ切り替えるという決定が下された。
結局、メーカー各社が不可能と白旗を上げ、現在はトーンダウンしているが、自家用車と異なり、使用される場所がある程度限定される公共交通機関に関しては、現在も環境に優しい車両の導入が理想とされている。電気は、その中でも特に環境に影響が少ないエネルギー源だ。
しかし、ウクライナで発電所が攻撃を受けたとき、キーウ市内で大規模な停電が発生。交通機関は麻痺し、市民生活にも大きな影響があった。
ウクライナやイラクの戦争は、日本に住む日本人にとって、ガソリン価格など多少は影響があるにせよ、多くの人にとっては遠い国で起きている、自分たちには関係のない話と感じでいることだろう。
しかし地続きで、ウクライナの国境まで1000キロにも満たず、ソ連に侵攻された過去を持つチェコにとって、ウクライナで起きている戦争は他人事ではない。
プラハ市は万が一、十分な電力が供給されず、電車やトロリーバスが動かせない事態になることを想定して、今後もディーゼル車を半分は導入する、と語った。






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