たび重なる排出ガス規制と燃費基準への対応で、みるみるダウンサイジングが進むバスのエンジン。
環境のためには間違いなくイイことで技術革新の素晴らしさを実感できるのだが、バスへのロマン(注:入浴剤ではなく)を持つバス好きには、ちと寂しい。
かつてはV8・15リッターの強力なエンジン搭載車が、どこでもブイブイいわせていた。その走りっぷり、音、匂い、振動……。どれもバス好きの五感を熱く刺激する要素だ。まだそれを体感できるV8のいすゞ・キュービックを追った。
本文執筆■ホリデー横浜(バスマガジンvol.87より)
【画像ギャラリー】〜KC-LV280と380〜 いすゞキュービック・V8車アルバム
キュービックの名の通りに角張った車体が強力なオーラを放つ

[キュービック]……それは、いすゞ自動車が1984(昭和59)年から2000(平成12)年までの長きにわたり製造していた大型路線用バス車両で、スクエアなイメージの車体デザインから付いた称といわれている。
1980年代前半に製造されていた、CJM、CQAなどのいわゆる「C系」の大型路線用バス車両をフルモデルチェンジして誕生した形式で、いすゞの大型路線バスで初めて、車両名称がつけられた車両でもある。
川重車体工業(後のアイ・ケイ・コーチ)が製造した標準車体のキュービックは、外装にリベットを使用するなどモノコック時代の製法を残しながらも、やや傾斜した1枚窓のフロントガラスを採用し、その左右には細長い三角形の固定窓を配すという、斬新かつ独特な車体形状をしていた。
その結果、運転席からの視野が大きく拡大されたほか、客室部分においても従来に比べて側面の窓が大型化されたため、高い天井と相まって、非常に明るいイメージの車体となった。
当初製造されたP-LV系列のキュービックは、水平式直列6気筒エンジン(いわゆる「直6」)を採用していたが、1991(平成3)年に東京都交通局向けの試作車として製造されたワンステップ超低床車では、初めてⅤ型8気筒の8Pエンジンが搭載され、ここに今回取り上げる「“V8”キュービック」の歴史が始まった。
その後、平成6年排ガス規制に合わせてKC-代となった1995(平成7)年以降製造のキュービックは、路線バスでは珍しいV8エンジンが本格採用された。