古き良き、LED表示器が登場する以前の幕式だったバス方向幕をアーカイブ記事として紹介していくこのコーナー。今回は方向幕の更新をテーマとする。
鉄道とは違い、バスは路線改変が度々行われる。方向幕も経由地や終点の名称が変わったりと改変の度に更新されることが多い。今回は方向幕がどのように更新されていたかを探ってみよう
文/写真:高木純一
※2017年7月発売「バスマガジンVol.84」より
鉄道とは違うバスならではの方向幕の更新手段『切継ぎ』
一番理想的な更新は「全交換」だ。これは方向幕のフィルムをまるごと新しく作り直して付けなおすことで、コマの順序も1から作り直すため、よく使うコマなどを近い順序で配置しなおすことが可能である。
鉄道の方向幕は更新の際、ほぼ全交換にしているがバスの場合は多い時は年に数回改変するため、しょっちゅう全交換をすると幕の製作費用がかかってしまう。なのでバスで多いのは「切継ぎ」だ。
切継ぎは在来の不要なコマまたは何も書かれていない余白コマ、幕の頭や終わりを切って新しい幕を継ぎ足すことをいう。切継ぎは新しく変わったコマのみを作って継ぎ足すため、製作コストが全交換より安く済むので多くのバス事業者に採用されている。
切継ぎの方法も様々でセロハンテープによる切継ぎや、両面テープによる切継ぎもあり、オージ製の表示機を使用する事業者に多く見受けられる「斜めに切り継ぐ」という特徴的な切継ぎの方法もある。
この斜め切は切り継いだ幕の切り口が表示状態の時に幕の軸棒部分に来る場合が多く、その部分をずっと表示していてから巻き取るとテープがしわになって劣化し破損する可能性があり、切り口が軸棒に接する面積を少なくするための工夫である。両面テープ式は交通電業社製の表示機を採用している事業者に多く、強度は高い。
切継ぎにつきまとうデメリットも、培ってきた技能で解消!!
切継ぎはどうしても巻き取る際に「ゆがみ」が発生してしまい、継ぎ足しの角度が少しでも異なると幕の端が機械に巻き込まれて折れシワになってしまう。この折れの部分から大きなシワや亀裂が生じ、まっ二つに引きちぎれるということも少なくない。
またレシップ(旧エスライト)製のバーコード検知タイプの幕は、切継ぎをするのにかなりの技量がいるため「カッティングシート文字」や「シール文字」を使用している事業者もある。
カッティングシート文字はシールシートを文字の形に切り、幕に貼っていく。これは製作業者側がレイアウトもセットした状態で納品され、下の剥離紙をはがし上の保護シートの状態で幕に貼りつけ、文字部分を完全に貼り付けた状態にしてから保護シートをはがすという流れで行う。
これはシール文字も同様だ。シール文字は透明なシールに文字を印刷して、そのシールシートをそのまま貼り付けるというもの。カッティング文字とは異なり保護シートが無いため作業は楽である。だが印字以外の部分は無駄であり、巻き取る際にしわが発生するので見た目もだんだん悪くなっていくのが難点である。
インクはシンナーで消すことができことから、一部事業者で行っているのが「手書き」である。同じインクを使用して文字を直接書く方法だが、文字の大きさや書体が異なるため、熟練の技を持った事業者でしか手書きはできない。
それでもシールや切継ぎをするよりは幕は痛まないし、コストもかからないという利点があるために、昔から廃れていない方法なのだろう。