【バス運転士日誌】カスハラに遭遇したら!? 東京都交通局の事例に見る今後の対応スタンダードとは?

■現場の運行管理の立場からは?

フジエクスプレス東京営業所の小園秀二運行管理者
フジエクスプレス東京営業所の小園秀二運行管理者

 毎日ダイヤに従って運行する路線バスは営業所内の運行管理者がすべての諸問題について判断して指示を出す。今度は現場で実際に発生した事例に対処する運行管理者の立場にある人に聞いてみた。

 フジエクスプレス東京営業所の小園秀二運行管理者に聞いてみた。「フジエクスプレスでも当該事例はありませんので、あくまでも運行管理を長年している私の考え方ですけど…」との前提で話を聞いた。

 「まずそのような事例があった場合は事の程度にもよりますが、即座に運行を中止するように指示します。しかし間違えていただきたくないのですが、この運行中止というのは当該便を運休にするということではありません」

フジエクスプレスのバス無線はアナログVHF波とインターネット網を使用したIP無線の2波で不感地帯がないようにカバーしている
フジエクスプレスのバス無線はアナログVHF波とインターネット網を使用したIP無線の2波で不感地帯がないようにカバーしている

 「運転士には運行を中止して必要に応じて現場から警察に通報するように指示します。営業所側では何が起きているのかの詳細がわからないからです。そのうえで、すでに乗車している方の保護をしなければなりません。他の乗客には落ち度はなく、運賃をいただいている以上は目的地まで安全に送り届けなければならないからです」

 「運転士が運行を中止して安全な場所、これはバス停ですが停車して他の乗客に説明しなければなりません。他の乗客を下車させて放置するようなことはあってはならないと思います」

 「その間に営業所では当該便の運行を継続するために代車を向かわせるのか、あるいは予備の運転士を派遣して運行を継続するのかを決定してその状況を現場の運転士に伝えます。それをもとに他の乗客に説明するわけです」

 「運行頻度が高い路線だと後続便を待った方が早いこともあり得ます。それでも路線バスである限りは法令に基づく理由以外で勝手に運休にするわけにはいきません」

 「よって当該便の乗客を車内で保護して後続便に乗り換えてもらうにしても、当該便の運行は前後しても車両を入れ替えても続行します。そして当該運転士は運転をせず、警察の事情聴取等の処理が終了してから営業所に戻り報告してもらうことになると思います」

 「要するに、路線バスとして勝手に運休させず、ハラスメントを受けた運転士はもちろんのこと、乗り合わせた落ち度のない他の乗客も保護するには、当該運転士以外の運転士で運行を続行するのがもっとも合理的かつ安全な方法ではないでしょうか」

不測の事態に備えてバス事業者では予備車と予備運転士を常に準備している
不測の事態に備えてバス事業者では予備車と予備運転士を常に準備している

 あくまでもこれは運行管理者個人の意見だが、実際に東京都交通局で事例として起こったので、業界はもちろんのこと、監督官庁である国土交通省にも早急に統一した指針を示してもらうことが必要だろう。

■今後のカスハラに対する業界の流れと運転士のメンタル

バスの運行は分単位だがGPSで秒単位まで時刻は取得できる
バスの運行は分単位だがGPSで秒単位まで時刻は取得できる

 一度でも事例ができてしまうと、概ね他社局もこれに沿った判断をすることが考えられる。これは司法分野での判例と似たような状況だ。カスハラ行為は運賃を支払って乗車しているお客様相手という、一見すると弱い立場の運転士のメンタルを傷つけるばかりか、それがために運転士を辞めていく人が増える。

 乗客の立場としては、たまたま乗り合わせただけなのにバスが運休になり、目的地へ行けなくなるばかりか、長い目で見ると運転士のなり手がさらに減り、ダイヤが維持できなくなると減便や路線廃止につながるのは地方だけの話ではなく東京でも現実になっていることだ。

 今後はカスハラに対してはバス事業者は厳正に対処し、運転士を守る方向にシフトしていくと思われる。運転士もこの事例を見て、カスハラに対処するために我慢せず泣き寝入りせず事前に事業者としての対処方法を確認しておく等の準備は必要になるだろう。

お怒りは分かるがわざと遅延させる運転士は一人もいないので立場を変えて考えてみて!
お怒りは分かるがわざと遅延させる運転士は一人もいないので立場を変えて考えてみて!

 どちらにとってもいいことは一つもないので、お怒りの気持ちはわかるが運転士も一人の尊厳ある人間である。カスハラは俯瞰すれば弱い立場の運転士を蔑めるいじめ以外の何物でもなく、今までは泣き寝入りして隠れていたものが今後はどんどん表に出ることになるだろう。

 現在の路線バスではバスの周囲はもちろんのこと車内もすべてドライブレコーダーで記録されている。ちなみに音声も記録されているので、運転士へのカスハラはすべて証拠として残される。

 記者は幸いなことにカスハラ行為に遭遇したことはないが、遅延で文句を言われることはある。しかし自分の運転が未熟なせいで遅延したというのは否定はしないが、決定的な事実としては渋滞や信号のタイミングが重なった結果の遅延なので記者に文句を言われてもどうしようもないし、遅延が回復するわけでもない。

 何分遅れてるんだよ!というお怒りについては記者は「申し訳ありません。11分20秒です!」と秒単位で伝えることにしている。こうすることにより、文句を言っている秒数分だけさらに遅延することが双方で認識できるのでそれ以上は言ってこないことが多い。

運行を始めれば全停留所の時刻との差がプラスとマイナスで表示されるラムコーダー
運行を始めれば全停留所の時刻との差がプラスとマイナスで表示されるラムコーダー

 ラムコーダーはGPSで時刻を取得していて当該停留所での遅延時分がリアルタイムで表示されているので、あとは表示されている時計の秒数を加えれば一瞬で回答できる。このような便利な運転士支援ツールが搭載されているので、こういう場面でも活用している。

 深刻なカスハラについて法的措置を取るかどうかは事業者の判断次第だが、心無い一言が巨額の損害賠償請求訴訟につながらないとも限らない。心理的な圧力まで加えた結果、運転士がPTSDを発症すれば刑法上の傷害罪(法定刑は15年以下の拘禁または50万円以下の罰金)で法執行機関に告訴されることだってあるかもしれないのだ。重ねて言うが、軽々しいカスハラ行為は厳に慎みたい。

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