V8の咆哮がこだまする!! アルピコ交通の山岳路ルートをぶっといトルクで走破せよ

V8の咆哮がこだまする!! アルピコ交通の山岳路ルートをぶっといトルクで走破せよ

 ひとつのバス事業者を掘り下げて紹介する、バスマガジンの名物コーナー、バス会社潜入レポート。今回は2016年に遡って、7月発売号で掲載したアルピコ交通編を振り返って紹介する。

 日本有数の山岳観光地として知られる長野県を営業エリアに持つアルピコ交通は、アルピコグループの中核をなす事業者として、2011年4月に松本電気鉄道、川中島バスおよび諏訪バスの3事業者の合併により誕生した。

 バス・鉄道による運輸事業、観光事業を中心として、近年は東京にも営業拠点を設けるなど、幅広い事業展開を行っている。

(記事の内容は、2016年7月現在のものです)
構成・執筆・写真/湯(バスマガ信州支局)
※2016年7月発売《バスマガジンvol.78》『おじゃまします! バス会社潜入レポート』アルピコ交通特集 前編より

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■グループ各社を統合しアルピコ交通が発足

善光寺は長野駅から10分の好立地。日中、路線バスは5分に1本程度の頻度で運行され、観光シーズンには多くの観光客を乗せたバスが行き来する
善光寺は長野駅から10分の好立地。日中、路線バスは5分に1本程度の頻度で運行され、観光シーズンには多くの観光客を乗せたバスが行き来する

 日本の47都道府県中、4番目の広さを持ち、周囲を山岳地帯に囲まれる長野県。

 アルピコ交通は、善光寺の門前町として栄えた県庁所在地・長野市や、芸術・文化活動が盛んな国宝松本城の城下町・松本市を中心とする地域交通の重責を担う一方、全国でも有数の山岳観光地における観光客の輸送を受け持つ二面性を持ち、都市部や観光地の路線バスを運行している。

 さらに首都圏や中京圏、関西圏と、長野県内の主要都市や観光地を結ぶ高速路線バスも数多く運行している。

 そのルーツは、長野県中部の松本地域を中心とした松本電気鉄道、県北部の長野地域を中心とした川中島バス、そして県中南部の諏訪地域を中心とした諏訪バスで、アルピコ交通は2011年4月に松本電気鉄道が2社を合併し、社名を改めたことにより発足した事業者である。

 本誌では、合併前に発行した号でアルピコグループ各社の特集を組んでいるが、今回はその後の動きを中心に紹介したい。

アルピコ交通統合前の松本電鉄、諏訪バス、川中島バスが運行していた県内各地の路線バスを引き続き運行している。一部営業所の統廃合や乗客減少などに伴い整理した路線も存在するが、新車・中古車ともにバリアフリー対応車両の導入を進めて旧型車と入れ替え、地域の公共交通としてのサービス向上に努めている
アルピコ交通統合前の松本電鉄、諏訪バス、川中島バスが運行していた県内各地の路線バスを引き続き運行している。一部営業所の統廃合や乗客減少などに伴い整理した路線も存在するが、新車・中古車ともにバリアフリー対応車両の導入を進めて旧型車と入れ替え、地域の公共交通としてのサービス向上に努めている

 まず、アルピコ交通発足後の最大の変化として、首都圏におけるバス事業の拠点である東京営業所が設置されたことが挙げられる。

 これにより、新宿~松本線などの高速乗合バスの一部を同営業所の車両が担当するようになったほか、首都圏発着の貸切ツアーなどのための車両も配置されるようになり、アルピコグループの車両で初めて「練馬ナンバー」の車両がお目見えした。(その後、東京営業所は15年4月にアルピコ交通から分社化され、「アルピコ交通東京」として営業している。)

 一方、既存の不採算営業所の整理統合も進められている。

 11年10月には松本地区の塩尻営業所が信州アルピコタクシーへ移管され、塩尻市地域振興バス「すてっぷくん」や近隣自治体からのスクールバスなどの受託を廃止したほか、12年9月末をもって、長野支社管内の妙高営業所(新潟県妙高市)が廃止され、「長岡ナンバー」の車両が消滅した(運行していた路線は頸南バスに移管~16年4月以降は妙高市営バス化)。

 また、14年11月30日をもって大町営業所が廃止され、同年12月1日に同地区の白馬営業所に統合されている。

過疎化が進み事業者単体では採算の取れないローカル線は、自治体が予算を拠出してアルピコ交通が運行する廃止代替路線として維持されている。写真は川後線
過疎化が進み事業者単体では採算の取れないローカル線は、自治体が予算を拠出してアルピコ交通が運行する廃止代替路線として維持されている。写真は川後線

 車両の管理方法であるが、それぞれの事業者で独自の体系による社番(数字5桁の車両管理番号)を付していた。しかし、グループ内各地区をまたいだ車両の転属が発生すると、社番の変更が発生し、車両の管理が煩雑になるため、アルピコ交通発足後の車両は統一ルールによる新社番が付されるようになった。

 併せて、既存の車両も転属やラッピング化、再塗装などの際に新社番に改番される車両が現れている。

 会社統合後の運賃は、支社エリアごとに統合前の旧事業者ごとの運賃体系を維持しているものの、整理が図られた部分もある。

 長野地区では12年10月に、長野市内を走るアルピコ交通及び長電バスの路線バス、そして中心市街地循環バス「ぐるりん号」でICカード乗車券の運用が始まり、一般公募により「KURURU(くるる)」という愛称が付けられた。

 デポジット付きのIC乗車券を購入し、チャージして使用すると、利用額・曜日などに応じたポイントが付与され、一定程度貯まると運賃として充当可能なチャージとして還元されるというのが基本的なシステムだ。

 13年10月には長野市営バス・長野市乗合タクシーで、15年10月にはすざか市民バスでも利用できるようになったが、今後の課題として大都市圏等の交通系ICカードとの相互利用化や、県内他地区の路線バスや鉄道、商店など利用範囲の拡大が挙げられる。

 長野地区以外(松本・諏訪)では14年2月1日に回数券の共通化が図られた。統合前の各社ごとに異なっていた回数券の割引率が、最もお得なラ・クーポンに統一される結果となった。

増えすぎたマイカーによる違法駐車や環境破壊から自然を守るため、上高地では1975年から段階的にマイカー規制を実施、1996年には通年マイカー規制となった。最繁忙期には観光バスも釜トンネルから先は乗り入れ不可となる。また2003年からは乗鞍山頂でもマイカー規制が開始され、長野県側はアルピコ交通がシャトルバスの運行を担当している
増えすぎたマイカーによる違法駐車や環境破壊から自然を守るため、上高地では1975年から段階的にマイカー規制を実施、1996年には通年マイカー規制となった。最繁忙期には観光バスも釜トンネルから先は乗り入れ不可となる。また2003年からは乗鞍山頂でもマイカー規制が開始され、長野県側はアルピコ交通がシャトルバスの運行を担当している

 12年まで、募集型企画旅行として大阪・新宿・横浜~上高地間などに運行されていた「さわやか信州号」は、高速ツアーバスに対する規制強化、新高速乗合バス制度への変更に対応するため、13年のシーズンから「高速乗合バス(路線バス)」として運行されるようになった。

 その結果、一般の高速バスと同じ予約サイトでチケットが購入できるようになるなど利便性が向上し、15年のシーズンからは大宮・川越~上高地線が、16年のシーズンからは東京~上高地線や渋谷〜上高地線(7月29日運行開始)が開設されるなど、運行路線も拡大の一途をたどっている。

 一時期滞っていた車両への投資は、アルピコ交通が発足した11年4月以降は積極的なものへと方針転換され、高速・貸切バスはこの5年間にそれぞれ50台近い車両が投入されているほか、路線バスも中古車中心ながらバリアフリー対応車両の導入を積極的に進め、市街地を走る路線バスでノンステップ車を見ることは珍しくなくなっている。(本文・ホリデー横浜)

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