バスの運転士と乗客との間には基本的な信頼関係があるので、命を預けて乗れるというと大げさかもしれないが、運送契約とはそういうものである。しかし中には悪気はないのだがズレが生じていることもある。現役運転士からの聞き取りでまとめてみた。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
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■バスが止まってから座席を立って!
現役運転士にいろいろと話を聞いてみると、座席に関する認識のすれ違いが多いことに気が付く。まずは座席を立つタイミングだ。まずは運転士の認識から。運転士は安全運転はもちろんのこと、車内での転倒事故も交通事故になるため、細心の注意を払う。
バスはやむを得ず急ブレーキをかけるとき以外は、停止するとき、つまり速度が0km/hになる瞬間が最も体に力が加わる。慣性の法則として習った覚えはないだろうか。よって停止前に座席を立つと何かにつかまっていない限り、体が前方に投げ出される力が加わり実際に体が動いてしまう。この時の転倒事故が多い。
カーブや右左折時よりも停止時の転倒事故が多いのだ。どれだけ減速していても停止の瞬間は着席したままでいてほしいのが運転士の願いだ。車内の自動放送でも「バスが完全に停止してから席をお立ちください」と言っているし、運転士は手動の放送でもっと確実に「ドアが開いてから席をお立ちください」とまで案内するケースもあるくらいなのだ。
一方で、乗客の認識はというと、「早く降りないとバスが遅れてしまう」、または「遅れているのにもたもたしていると迷惑がかかる」と気遣っているのだろう。決して悪気があって席を立っているのではなく、ドアが開いたらスムーズに降車しようとしているだけなのだ。
しかし、安全の面からはドアが開いて席を立っても1分も2分も余計に時間がかかるわけではないし、むしろ転倒された方が事故処理で時間がかかる。座席から立ち上がり何もつかまっていない瞬間が最も無防備で、慣性力に対して抵抗することが困難な瞬間なのだ。運転士としては、この認識は一刻も早く乗客とのすり合わせをしたいところだろう。
■優先席が空いていれば座って!
日本人の律義な性質からなのかもしれないが、優先席があると自分は該当者ではないので座れない、または座りにくいという意識を持つ方は多い。しかし専用席ではなく優先席なので基本的には一般の座席と扱いは変わらないのだ。
統計を取ったわけではないが、電車よりもバスの方が優先席に限らず座席を譲る姿を目にすることは多いし、特にそれで問題が起こっているようには見えない。なので立席が多い満員バスならば仕方がないが、優先席しか空いていない状態なのであれば、ぜひとも座ってもらいたいのが運転士の共通した願いだ。
■車椅子スペース座席
理由はその方が安全であるからに他ならない。優先席に座ってもらうべき乗客が乗車してきたら譲れば良いだけの話だ。車椅子での乗車があるときも、最近のバスは2席分を跳ね上げて車いす用のスペースを確保するタイプか、最初から空いていて普段は立席スペースになっているタイプが多い。
車椅子での乗車を認識した運転士は、均一運賃制の前乗りの場合だがスペースを確保するために対象座席に座っている乗客に立ってもらい、中ドアを開けてスロープを設置して乗車してもらう。そしてスロープを収納して降車地を聞いてから、運転席に戻り前ドアを開け乗車扱いをする。降車停留所ではこの逆の手順を踏む。
この車椅子スペース用の跳ね上げ座席は優先席扱いに見えるが、普通に座って構わない座席だ。優先席と同様に避けて立っている乗客も多いが、空いていれば座った方が運転士も安心して運転できる。
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