いよいよ日本でも寝台の「ような」、フルフラットシートバスが走り始める。規制だらけの日本で、ベッドの「ような」シートが誕生するのはバス業界にとっては長年の悲願だった。ところで、なぜ「ような」が付くのだろうか。規制とのはざまで揺れ動くフルフラットバスはどこへ向かおうとしているのか。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
(詳細写真は記事末尾の画像ギャラリーからご覧いただくか、写真付き記事はバスマガジンWEBまたはベストカーWEBでご覧ください)
■「寝台」と言ってはいけないのであった!
日本ではバスに旅客用の寝台を設置することは認められていない。これは現在も同じである。よって寝台列車のように最初からベッドとして造り付けられていてはいけないのだ。
この部分を改正すれば済むだけの話なのに、規制当局が「寝台はいけないが座席をフラットにする分には、基準に合致していれば構わない」と緩和したのが、今回のフルフラットバス誕生の経緯である。
よって一見、寝台に見えてもそれは正座席であり、あくまでもシートを倒したらフルフラットになるという理屈でないといけない。最初から夜行専用車としてベッドを備えておればコストは安く済むのに、座席から何らかの「変身」をしないとベッドのようにならないのは、設計も製作もお金がかかって仕方がないだろう。
■安全のため…
もっとも規制当局の言い分も分かる。すべては安全のためだ。バスが事故らない保証はないので、万が一事故に遭遇した際に乗客を守れる構造にしないと、無防備な状態で寝ている乗客は乗せられないということだ。
今回の基準では、進行方向に向いて「寝る」ようにシートを配置しなければならない。それは、4列であろうが3列であろうが、現在の高速バスのシート配置と同じだ。つまりその状態からフルフラットになるのであれば、安全基準を満たすことを条件にOKということである。
■シートベルトは2点式
転落防止のための設備や衝突時の衝撃を緩和するためのクッション等は当然設置しなければならないが、シートベルトは2点式に限る。これは実験の結果、3点式だと衝突時に首を絞めてしまうからだそうだ。
そういった安全面を考慮した基準をあらかじめ設けておき、規制を緩和するのは結果的に乗客の安全のためなので、一概に規制ばかりで何もできないという批判は当たらないだろう。
■面白い構造
さて、今回登場したフルフラットバスは、ハイデッカー車で3列シートかつ、前後の座席が互い違いに上下になり 、2段ベッドのようになる仕組みだ。
日本人らしい、よく考えられた精密な構造だと感心したのだが、これで定員を24名確保している。フラット時の長さは180cmで、シーと幅は48cmである。また高さ方向の空間は車両やシート位置により異なるが51cm~73cmで、上段の方が高い空間の場合が多いようだ。
■B寝台車と比較すると…
すでに鉄道では開放のB寝台車は営業運転していないので、乗ったことがある人も少なくなってきているだろうが、客車2段式のB寝台の幅は70cmで、長さは195cm、空間の高さは上下段で異なるが概ね1m前後である。
今回登場するバスの幅48cmはぴったりと体がおさまって寝返りは無理と考えた方が良い。そして高さ方向の51cmはシートの上で起き上がり着替え等、何かをすることはできないだろう。もはや20系客車に乗ったことがある方は少ないだろうが、20系の客車3段式の幅は50cmで高さは60cm程度だった。
昭和30年代当時の日本人の体形をしてニックネームは「カイコ棚」だったことを考えると、フルフラットシートに潜り込んだら下車するまでカイコ状態と考えた方が良いのかもしれない。
コメント
コメントの使い方