高速道路を通らない路線バスとしては本州で2番目に長い距離を走った、三重県の三重交通による一般路線バス「56系統・松阪熊野線」が、2025年3月末に運行を取り止め翌日廃止となった。この名路線を振り返ってみたい。
文・写真:中山修一
(本州で2番目に長かった路線バスにまつわる写真付きフルサイズ版はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)
■56系統・松阪熊野線のプロファイルを振り返る
三重交通56系統・松阪熊野線は、三重県の松阪市と熊野市の間およそ135kmの距離を、4時間半ほどかけて結んでいた、国内有数の長距離一般路線バスだった。
1970年に運行を始めた特急バスが前身で、2018年10月に松阪熊野線として一般路線化された。愛称は「熊野古道ライン」。
一般路線化の際にハイブリッドの大型路線車が導入された。車体に「熊野古道ライン」のロゴが入っている、実質この路線の専用車であったのが特徴の一つ。
2025年3月31日に運行を取りやめた結果、熊野古道ラインは7年に満たない短い期間だけ存在していた、のちに幻と言わしめるであろう経歴を残したことになる。
■最晩年は平日1往復だけ!
バスの本数は平日/土日祝ともに朝2本・昼1本発の設定。松阪中央病院〜三交南紀が全区間で、停留所の数は合計126カ所。松阪駅が始発/終点の便が1本ずつあった。
2024年10月のダイヤ改正で、1日3往復あったバスが、平日のみ運転の1往復に減便。三交南紀7:36発→松阪中央病院12:03着、松阪駅前14:15発→三交南紀18:32着であった。全区間乗車した場合の運賃は2,700円。
また、56系統の運行終了にともない、松阪熊野線のみが停車していた停留所12カ所が同時に廃止されている。
■松阪熊野線が去った後の通り抜け事情
松阪熊野線の廃止後、滝原宮前〜紀北町役場前までの約27kmの区間で、普通の路線バスが1本も通らなくなった。この区間には56系統でも特に車窓からの景色がきれいだった荷坂峠が含まれている。
この区間にデマンド交通のような、より簡易的な代替交通が立てられたのかと軽くチェックしてみると、2025年4月現在のところ、そういった予定はないようだ。
では、56系統で直通できた松坂市〜熊野市の間を通り抜けるには、どのような交通手段が現状選べるのか……
最も簡単なのは56系統の経路に並行しているJR紀勢本線を使う手だ。紀勢本線には名古屋〜紀伊勝浦を結ぶ特急「南紀」も運行しているため、そう苦労せずに移動が可能だ。
一方、もうバスでは行けないのかと言えば、松阪を出発/到着地にすると、VISONという場所で乗り換えが必要になるが、名古屋〜新宮間に三重交通の高速バス「名古屋南紀高速線」が走っており、通り抜けるだけなら今後もできる。
■松阪熊野線に寄せた行き方を探ると?
続いて、例えば松阪駅を出発後、松阪熊野線の経路に寄せつつ、往時を偲びながら移動したいと考えた場合、どのような行程を組めば「それっぽく」なるのか。
まず、松阪駅を出発後、松阪熊野線の最初のトイレ休憩地になっていた、道の駅奥伊勢おおだいまでは、1日4往復と少ないながらも、引き続き三重交通の路線バス「57系統」が通っているため、これまで通りに行ける。
そこを通るための路線バスが廃止された今、道の駅から先をバスだけで繋げていこうとするのは、「なんで今更そんな…」とばかりの無謀な望みと考えておくのが良さそう。代役に立てるのがJR紀勢本線だ。
道の駅奥伊勢おおだいの周辺には、紀勢本線の「三瀬谷駅」がある。道の駅の建物出入口から直線距離で約125m。
ただし、駅舎の出入口が線路を渡った側で、踏切や跨線橋・地下道の類が近くにないため、実際の徒歩移動では距離およそ700m・所要10分といったところ。
三瀬谷には特急列車も停まり、(紀勢本線はもともと本数少ないけど)交通の便はそれほど悪くないイメージ。
ここから列車に乗ったとして、どこで降りればスムーズに進めるのか。どうしても三交南紀に行きたい際は、だいぶ56系統の始発/終点に近づいてしまうものの、87km先の各停のみ停まる「大泊」もしくは90km先の特急停車駅「熊野市」まで行くのが手堅い感じ。
大泊/熊野市どちらの駅にも三交南紀行きのバスが停まる。ここでは詳しいダイヤには触れないが、56系統が結んでいた松阪〜三交南紀間を公共交通機関で移動すること自体は、(今のところ)これからも可能というわけだ。
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