本誌でも試乗協力をいただいているオノエンジニアリングでは、以前紹介したアメリカン・スクールバスやエアロキングばかりでなく、オリジナルの「オノエンスター」という 全長8mのハイデッカーをラインナップしている。
このバスは貸切・観光に適した仕様で、マーケットのツボを突いた独自の車両だった。
そしてこのたび登場したオノエンスターEVは、完全な路線バス仕様、そして7m(6.99m)という全長のノンステ車という、コミュニティバスとしての運用に適したスタイルと性能の電気バスとして登場した。
【画像ギャラリー】徹底した日本仕様でコミュニティバスの革命児なるか
文:近田茂/写真:上田穂高
取材協力:オノエンジニアリング
路線バス、コミュニティバスにいよいよEV時代本格到来か!? 実用性に期待!!

バスマガジン本誌ではかつて、8mのハイデッカー「オノエンスター」が登場するやいなや、早々に単独取材を敢行し、高速道路で郊外までの試乗をはじめ、市街地試乗を実施した。さらに続いて追加投入されたATモデルでも試乗、レポートの掲載を行った。
今回の「EV」についても、実は当初より導入計画を伺っていた待望のモデルである。まずは写真をご覧いただきたい。
既報のオノエンスターYBL6805Hは全長約8mの中型観光車ながら大型ハイデッカー並みに見晴らしの良い快適な乗り味が特徴のバスだったが、今回はフロントマスクの基本デザインこそ共通するものの、左右窓面積は大きく床の低いノンステップ路線バスである。

製造元は中国のアジアスター(旧ヤーシン)だが、同社・小野社長自らがこだわりのオーダーで全長を6990mmにして製造されている。
厳密にいうと本国モデルにも存在していないオノエンスターオリジナルのバスを造り上げている点に驚かされた。ターゲットは国内で多く活躍するコミュニティバスである。

ちなみに車体サイズは全長6990×全幅2260×全高3040mmでホイールベースは4200mm。同バスで多く活用されている日野ポンチョ(ロング)のサイズが同6990×2080×3100と4825mm。実はポンチョには羽村市と墨田区、そして石川県の小松市ですでに試験運行されているポンチョEVがある。
2017年の東京モーターショーにも出展された同EVは30kw/hのリチウムイオン電池で出力2200kwのモーターを駆動。一方オノエンスターEVは電池モジュールの3段搭載で容量が大きく設定され、トータルで95.3kw /h。155kw縦置きリヤモーターで後輪を駆動する。

フル充電で150~200kmは走れる性能。路線バス1日分の運行距離は充分カバー

今回は輸入通関後に搬送されてきたEV7mの1号車で、納車前検査点検作業の真っ最中。慎重に作業が進められる中のシェイクダウンテストに便乗させて頂いた。
まず運転席はクッションに十分な厚みのあるハイバックシート。肩のところから取り出して身体にフィットする3点式シートベルトの存在が嬉しい。安全・快適に仕事に従事できる環境が提供されている点から大きな価値があると思えた。
また乗降口の地上高は345mmと低い。もちろんさらにニーリング機能もあるほか、ロードクリアランスを高める機能もある。そして車椅子用のスロープはフロア下部に収納されていて、引き出して使う方式。スッキリ収納されているだけでなく出し入れの操作性も賢く設計され、扱いやすいものだった。

イグニッションキーをONにしてセル始動と同じ動作をすると、スタンバイモードになる。後はインパネにあるDボタンを押すだけ。右手でサイドブレーキを解除してアクセルを踏み込めば、GVWで10トンになる車体はいとも簡単に発進し加速トルクの不足もない。
登坂路でもまるでへこたれることはなかった。変速装置は持たないので常にスムーズな走りが簡単な扱いで発揮できる。右足だけの操作具合いで、乗客に優しい穏やかな走り方に専念できるのだ。
アクセルを戻した時の回生具合は想像よりも弱く、減速停止にはエアブレーキを踏む。その意味でも操作性に違和感を覚えることは少ないだろう。

フル充電で150~200kmは走れるというのも驚き。エアコンの使用や渋滞等、条件を悪く見積もっても100kmは走れそう。路線バス用途としては1日分の運行を賄うには十分な性能と見た。
ちなみにポンチョEVの航続距離は公表値で30km。実際の運行現場では10km程度走って充電を繰り返す使い方をしているそう。その点オノエンスターEVはかなり実用的である。
あとは現在未決の価格設定がとても興味深い点だ。あくまで筆者の推測だが、ポンチョEVの導入に必要となる約8000万円の資金を投じれば2~3台は買えてしまうのかもしれない。それ程廉価でなくても価格面での大きな革新にも貢献するだろう。
