ほぼ全面運休の高速バスも再開へ
それに続き、藤井直樹・国土交通審議官や原田修吾・地域交通課長からも支援策の具体的な説明があった。また、この種のフォーラムではおなじみの加藤博和・名古屋大学教授が鉄道や貸切バス事業への影響を説明。
『バスマガジン』で連載も担当している成定竜一・高速バスマーケティング研究所代表も、「4月以降、高速バスは一部を除き運休が続いていたが、運行再開の動きがみられる」としたうえで、各事業者の減収額、今後の展望を説明し、国などの支援を訴えた。
これ以外にも、「バス営業所で乗務員の感染が確認され大規模運休を余儀なくされた際の、乗客への運行情報の提供方法」(日本海コンサルタントの塩士圭介氏)、「各事業者の運行情報を、県単位でとりまとめて提供した事例」(呉工業高等専門学校の神田佑亮教授)など、バス業界にとって参考になる発表が相次いだ。
高齢者の外出自粛で心身の衰えも
議論の対象はバスにとどまらなず、鉄道や旅客船はもちろんのこと、とりわけ注目されたのは「福祉輸送という分野だ。運営を手掛けるNPO法人らからは、高齢者や障がい者が外出を控えることで体力や認知能力が低下する「フレイル」という問題も指摘された。
事例として、ワゴン車を使う福祉輸送だが、運転業務を相鉄バスに委託しているという神奈川県大和市の「のりあい」というサービスが動画で紹介された。
感染防止のためボランティアによる添乗を取りやめたが、「ワンマン運行」になった相鉄バスの乗務員が、わざわざ運転席から降りて高齢者の乗降を補助しているシーンが動画で紹介された。
最後に、加藤教授を中心に、各業界や行政らが取り組むべき枠組みを取りまとめ閉幕した。当日の動画や資料は、イベント公式サイトで確認できる。
運営は「手弁当」。熱意に
これほどの規模のフォーラムの実現について、しかも無料で開催できた背景を、自身も運営委員の一人である、前出の成定氏はこう話す。
「発言者以外にも裏方が何人もいる。たとえば、オンライン中継技術を担当したのは誰かというと、バスのダイヤ情報などを扱う交通情報学の第一人者、東京大学の伊藤昌毅助教。
交通について高度な知識、実績、そして人脈を持つプロフェッショナルが、みな“手弁当”で、国土交通省など登壇者との調整、集客、当日の運営などを分担した」。
普段から交流を重ねる仲間たちが、「コロナ危機」に際し、相当な熱意で一つにまとまったという。感染拡大はいったん落ち着いたように見えるが、乗客数は完全には元に戻らず、苦境が続くバス業界。しかし専門家らの知恵を結集し、再生は必ずや実現すると期待できる。