以前に乗車レポートをお届けした三重交通の長距離路線バス「松阪熊野線」が、2025年3月末で廃止されることになった。路線バスとして本州で2番目に長い約135kmという距離を走行しているが、とうとう廃止が決定したようだ。まだ乗ることは可能だが、詳細を見てみよう。
文/写真:東出真
編集:古川智規(バスマガジン編集部)
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■南紀特急からの各停便に変更した歴史
松阪熊野線は「南紀特急バス」という名称で1970年から運行していた。松阪~紀伊勝浦を結んでいたが、何度かの経路変更の後に、2018年10月1日からは「南紀特急バス」から「松阪熊野線」へと生まれ変わった。
特急バスということで、これまでは松阪市から尾鷲市の主要停留所数ヶ所に停車していたが、このリニューアルで路線上全ての停留所に停車する「各停便」になった。
その際は長距離路線バスの1つに仲間入りしたとして話題になった。各停便の路線バスとしてはあまりにも長距離であることから、途中の「道の駅奥伊勢おおだい」と「海山バスセンター」で15分の降車休憩があり、トイレのない路線バスでも休憩が可能だった。
■エルガハイブリッドのハイバックシート専用車
車両はいすゞのエルガハイブリッドを使用、車体側面にはハイブリッドの文字とともに「熊野古道ライン」とラッピングされた専用車両で運行している。車内はよく乗車する路線バスよりも広く、フルサイズ感を感じることができる。
また座席はハイバックシートを採用しており、各座席にはカップホルダーと網ポケット、また一部座席にはUSBポートを備えているほか、無料でWi-Fiも利用でき、長距離利用に対応した設備を誇っている。
■純粋な赤字が理由?補助金の対象にもならない輸送人員!
5月21日に尾鷲市内で開催された公共交通に関する協議会にて三重交通から廃止意向の説明を受けたようだ。それによれば現状は松阪熊野線の利用者の85%は松阪市と大台町間の乗車で、東紀州での乗降はほとんどないという。
国や県の補助を受けて路線を維持してきたが、1日あたりの輸送人数が補助要件を下回るため、今後は年間1億円弱の負担が見込まれるということから廃止を決めたそうだ。
路線廃止とはいえ、松阪市と大台町を結ぶ区間についてはダイヤ改正を行ったうえで、経路上の相可高校、商業施設「VISON」、道の駅「奥伊勢おおだい」を結ぶ区間便を増便する予定だという。
また路線廃止で大紀町から尾鷲市の一部は本路線のみが停車するので停留所そのものが廃止になる。廃止停留所付近の交通機関については、鉄道や市営バスで確保できているとした。
■どうするどうなる?「Ise・Taki・Kumano 南三重へのいざないフリーきっぷ」
以前の乗車記事では沿線の停留所が増えたことで、利用者はどの程度いるのかと思っていたが予想よりも少なく、やや寂しい感じを受けたことをお伝えした。現在は本路線の一部を含めて伊勢・多気・熊野を結ぶ路線を何度でも乗車できるフリー切符「Ise・Taki・Kumano 南三重へのいざないフリーきっぷ」が発売されている。
伊勢市から多気町にある商業リゾート施設「VISON」(ヴィソン)を結ぶ路線、そしてこのVISONから尾鷲・熊野方面へ向かうバスに乗車できるという切符で発売場所の関係から伊勢市から出発する必要があるが「VISON」からは名古屋からくる南紀高速バス、そして路線バス「松阪熊野線」が利用できる。
「Ise・Taki・Kumano 南三重へのいざないフリーきっぷ」は5000円で、有効期間は利用開始日から7日間有効と破格の長期設定だ。10月1日からは平日のみ1往復に減便、そして2025年3月末で廃止というスケジュールが発表されている。
この夏に伊勢、多気に尾鷲・熊野と南三重の魅力を本路線で十分に満喫していただきたい。1970年から長く続いてきた松阪市と東紀州を結ぶバス路線が消えるというのは非常に寂しいが、機会があれば乗車して山々と熊野灘の美しい風景を車窓から今一度、楽しんでおきたい。
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