1月9日のWEB記事でバス運転士に強い権限を与えカスハラ対策をすれば待遇以外の問題の一つは解決に向かうのではないだろうかというオピニオン記事を掲載したところ、本誌読者から大きな反響をいただいた。概ね賛意の意見が多かったが、ここから先は法改正や制定が必要なので国会議員の仕事だ。さらに深く掘り下げてみた。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
(写真はすべてイメージであり本文とは直接関係ありません)
■現状で乗車を拒否できる理由とは?
バスの乗車は法律上は運送約款による契約に基づいている。契約とは申し込みと承諾により成立する。路線バスの場合は、その都度契約書を交わすわけにはいかないので、バス停で待ち、バスが停車してドアが開いて乗車した時に旅客の運送の申し込みがあったものとし、バス事業者は運送の引き受けを承諾したものと解され、契約が成立する。
運送の引き受けは法律によりバス事業者の「義務」とされており、原則として拒むことはできない。正当な理由なく拒んだ場合は罰則が待っている。
その正当な理由とは何なのか。そもそも事業者の定める運送約款は国土交通大臣に認可されたものなので、これに反した運送の申し込みは拒絶できる。行先や経路上でないところで降ろせという申し込みには応じなくてもいいわけだ。これはわかりやすいし、こんなことを言う乗客はまずいないだろう。
■そのたの拒否できる理由とは?
その他の正当な理由を挙げると、運送に適する設備がない場合だ。これは座席定員制のバスで座席がない場合や、立席でも定員を超えている場合はそもそも乗車させることができないから拒否できる。
運送が法令または公序良俗に反するものであるとき、とは解釈が難しいところだが、極端な例としては刃物を裸で持つ人を乗せるわけにはいかないということだ。これは実際にその行為を行った場合や静止に従わない場合を含むので、いったん引き受けた運送契約を解除することもできる。
■ありがちな拒絶理由
法律に明記されていなくても国土交通省令で定めた事由がある場合も拒絶できる。旅客が危険物を携行しているときはわかりやすい。泥酔者または不潔な服装をしたものであって他の乗客に迷惑となるとき、は乗務員の判断によるので難しいが、前後不覚に泥酔していればわかるし、著しく不潔であるものも分かる。
付添人が伴っていない重病者も拒否できる。外観からはわからない場合もあるだろうが、そういう規定もあることは知っていていただきたい。インフルエンザ等の感染病に罹患している所見があるときも拒絶できる。コロナ騒ぎの間は咳や熱がある方は乗車を遠慮してくださいという注意書きがバスに限らずそこらに貼ってあったので覚えている方も多いだろう。
■事実上不可能なカスハラ客の乗車拒否
このような理由がある場合は運送を拒絶できるが、残念ながらいわゆるカスハラ客の運送を拒む明確な規定はない。拡大解釈すれば「公序良俗に反する」というところだろうが、明確でない以上、運輸局の知れるところになると事業者が行政処分を受けかねないので、ワンマンでの運転士がそんな重大なことを判断できるかといえば、事実上不可能といっても過言ではないだろう。
よって航空機の機長のように法律に基づいた行為をやめさせる命令書を交付し、従わない場合は拘束し警察官に引き渡す権限を、または大型船舶の船長のようにもっと強大な権限を付与しても構わないような気がしたのだ。
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