いまでこそリーズナブルで快適、予約やチケット購入もインターネットを利用してスマホで座席指定までできる便利な高速路線バス。しかしかつては、乗るまでに技術(?)が必要だったり、コツがあったり、情報収集もままならないなかなか難しい時代もあった。
そんな高速路線バスの飛躍&発展期に筆者が利用した長距離バスをレポート。今回は庄内交通の夕陽号。後部が2階建てとなっていた異色のアステローペが運行していた記憶だ。
執筆/写真:石川正臣(バスマガジンvol.76より)
庄内交通が代理店となって輸入していたアステローペ
酒田―東京渋谷/酒田―東京赤羽(いずれも庄内交通)
乗って楽しい長距離バス。かつてはこの言葉にあてはまるような長距離路線バス車両がたくさんあった。
しかしその車両バリエーションは西高東低。長距離バスは一般の路線バス以上にその“現象”が感じられ、特に東北方面は寂しい限りだった。しかし庄内交通を中心に東北地方をこのボルボ・アステローペが走り出し、どこにも負けない存在感をかもし出した。
同社にとって長距離便といえば国道112号線経由の山形行きの112高速バスがあった。当時は高速道路はなかったが、幹線便でのネオプランのダブルデッカーによる運行など、車両面での意欲は旺盛だった。
ボルボアステローペは庄内交通が代理店となって、貸切観光バスとして輸入して運行していた。その後、1988年暮れに開業した夜行便の東京・渋谷行きは、全国初のボルボアステローペによる路線便となった。
その次に運行を開始した長距離便が今回紹介する仙台便だが、寝ているうちに到着してしまう夜行便と違い、そこには昼行の良さが間違いなくあった。
出羽三山という難所を難なく走り抜けたボルボの底力
起点は庄内地方最大の街である酒田。庄交バスターミナルより発車する。スーパーマーケットを併設する待合室が完備なので、到着したバスに乗り込む客で大賑わい。そして酒田駅でも待ち受けた客が並んでいる。そんな大量の乗客が次々と乗り込み発車。
酒田市内を走り、庄内川を渡ると田園地帯をのどかに走る。米どころとして有名な庄内平野を快走していたが、産業開発の波は押し寄せ、工場も隣り合わせている地域だ。農業も工業も明日の庄内のためになくてはならない。
庄内のもうひとつの拠点、鶴岡を過ぎれば前方には出羽三山の山並みが待ち受けている。アステローペはこの山岳地帯に挑むことになる。続くヘアピンカーブ、急坂にもびくともしないボルボ車。夏は緑萌える山の景色だが、真冬は雪深い豪雪地帯だ。なんといっても月山スキー場は、6月から滑走できるほど。
峠を降りればサクランボで名高い寒河江。同時にここは芋煮会で有名な場所だ。水の補給には消防車が出動し、日本一大きな鍋を使う。
日本一の鍋は各地から借用依頼があるというが、内陸部の都市ではトレーラーにも乗せられないし、日本海沿岸都市では船には載せられても川を下ることはできないので、年に1度、この場所でしか見ることのできない大鍋だ。