空港バスのなかには、走らせては見たものの思ったような需要がなく、廃止になってしまった路線というのも実は多い。
仙台空港のように過去は空港アクセスはすべてバスに頼っていたのに、鉄道ができてからは空港バスらしきものが1本も走らなくなり、最近になって意外なバス会社が乗り入れるようになった例もある。それぞれの事情を追ってみよう。
文/写真:谷川一巳(バスマガジンvol.86より)
※現在の状況と異なる場合がございます。
■鉄道が強かった仙台空港
冒頭に述べた仙台空港では、鉄道が乗り入れるまでは仙台市営バスの空港バスが空港アクセスのメインルートだったが、現在は1本も運行しなくなった。
このほかに東日本急行、愛子観光の空港バス、また宮城交通と山交バスが運行する山形~仙台空港間、宮城交通、福島交通、JRバス東北が共同運行する福島~仙台空港間が運行された時期もあったが、これらはすべてなくなった。
以降は地域の路線バスとして仙台バスと岩沼市民バス(コミュニティバス)が乗り入れるのみとなった。バスは鉄道の利便性にかなわなかったという例である。
ところが、2016年、意外なバス会社が仙台空港に乗り入れる。会津若松~福島間を運行していた会津乗合自動車の高速バスのうち、3往復が仙台空港に延長された。福島からの乗降もできる。仙台空港には、地域の路線バス以外で乗り入れる唯一の存在が会津乗合自動車となった。
■期待されすぎだった? 中部空港
期待されすぎた空港といえるのが中部空港である。名古屋では、それまでの小牧空港からセントレアこと中部国際空港が開港したとき、多くの空港バスが誕生した。
しずてつジャストライン、豊鉄バス、名鉄東部観光バス、JR東海バス、八風バス、京福バス、伊那バス、現在アルピコ交通となった川中島バス、松本電気鉄道は2社そろって乗り入れた。
しかし、これらはすべて撤退している。確かに静岡や福井からわざわざ中部空港を使うとういう人が毎日大勢いるとは思えない。
JR東海バスは新幹線からの乗り換え客を期待し、わざわざ名古屋駅の新幹線改札に近い側にバス停を設けての路線開設だったが(その場所が現在のJRバス乗場)、短期間で撤退している。
同様に、空港が新しくなるとバス路線も新しくなるものの長続きしなかった例は多い。北九州空港が海上空港として新たに開港したときも、北九州市営バスとサンデン交通が乗り入れたが、短期間でなくなってしまった。
■羽田と成田の関係が路線に現れた
こんな例もある。「国際線は成田、国内線は羽田」と決まっていた頃は東京空港交通、リムジンパッセンジャーサービス、京浜急行電鉄、川崎鶴見臨港バス4社共同運行で新横浜~成田空港間の路線があったが現在はない。
羽田に多くの国際線が発着するようになり、横浜地域からの成田空港利用者が激減、バス路線が廃止に追い込まれた。羽田空港発着の国際線は増えており、今後もこういった傾向が続くのかもしれない。
■県庁所在地をめぐる空港バス事情
県庁所在地がらみの例として福島空港と松本空港は似ている。ともに郡山、松本という、県庁所在地ではない都市の近くに空港がある。
空港バスは郡山、松本から運行しているが、以前は福島、長野から、それぞれ福島交通、川中島バス(現在アルピコ交通)の空港バスがあった。
やはり県庁所在地は無視できなかったということか? しかし「県庁所在地だから」といった需要はなかったようで、これらの路線はなくなってしまった。
似た例としては、米子空港と鳥取を結ぶ日の丸自動車の路線もなくなった。
鳥取にも空港があるので、本来鳥取と米子空港を結ぶ需要はなかったのだが、県庁所在地の鳥取空港を差し押さえて米子空港に国際線が就航したため、ソウル便のある曜日だけ県庁所在地への便を運行した
だが、韓国からの客の多くは米子を目的地(大山登山など)としていたため、需要は多くなかったようである。