WILLER EXPRESSは会員を対象に、近年の宿泊事情と夜行バスの利用傾向についてのアンケート調査を2025年6月に実施した。今回の調査は3回目(1回目:2024年10月、2回目:2025年3月)となり、WILLER会員のうち直近2年以内に高速バス「WILLER EXPRESS」を利用した1173名の回答を集計したもの。
文・写真:古川智規(バスマガジン編集部)
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■夜行バスを“ホテル代わり”に選ぶ人が増加
近年、訪日外国人観光客の増加により、主要都市ではホテルの宿泊料金の高騰や空室不足が深刻化している。さらに、2025年4月に開幕した大阪・関西万博の影響による大阪周辺を中心とした宿泊需要の高まりがうかがえる。こうした背景のなかで、移動と宿泊を兼ねる「夜行バス」が、経済的かつ効率的な手段として再評価されつつある。
本調査において「直近2年で宿泊料金が高くなったと感じるか」という設問では、「非常に感じる」と回答した人が70.2%にのぼり、前回調査(2025年3月)比で5.9ポイント、前々回調査(2024年10月)比では10.5ポイント上昇する結果になった。宿泊料金の高騰を感じる都市は東京(71.7%)、大阪(73.1%)、新潟(78.0%)、神戸(77.1%)、札幌(77.0%)など、全国の主要都市に及んでおり、宿泊料金の高騰や空室不足が全国的な課題となっているようだ。
さらに、「宿泊料金の高さを理由に夜行バスを利用したことがあるか」という設問においては、約7割が「ある」と回答。前回比で4.1ポイント、前々回比で6.2ポイントの増加となり、夜行バスが宿泊の代替手段として拡大傾向にある。
■万博効果と宿泊難が夜行バス利用を後押し
次に、「直近2年以内に訪問した都市」の設問では、大阪が61.7%と最も高く、前回調査(2025年3月)比で11.6ポイント増加しており、万博の開幕により大阪への訪問ニーズが高まった。また「目的地周辺で宿泊施設が満室で予約できなかった経験があるか」という設問では、45%が「ある」と回答。
満室だった都市としては、東京(28.9%)、大阪(23.4%)、福岡(20.9%)が上位。そのうち「目的地周辺のホテルが満室だったことを理由に夜行バスを利用した経験があるか」という設問では、約4割が「ある」と回答、大阪をはじめとする都市部での空室不足が夜行バスの選択につながっているようだ。
これにより、今後も大規模イベントや観光ピークシーズンにおいては、宿泊の代替手段として選択される夜行バスの需要が一層高まると考えられる。
■夜行移動についての記者考
以前は夜行列車がホテル代わりの移動手段としては比較的ポピュラーだった。座席、寝台にかかわらず多くの夜行列車が運転され、それらを積極的に利用することで宿泊費を浮かせていたのは昭和世代ならば懐かしいと思うところだろう。
しかし国鉄が分割民営化され、自社線内完結の列車に走り、上限が安い特急料金では稼げずかといって高い寝台料金では乗客は集まらず、運行すればするほど主に人件費で赤字になるという負の連鎖を生んだ。国鉄は波動輸送と宿泊施設の確保目的で万博や甲子園応援客のために寝台列車を利用した夜間滞留かつ短距離輸送を実施してよろこばれたものだが、それも今は昔になってしまった。
JR旅客各社は繁忙期であっても夜行快速列車の運行を取りやめ、寝台特急列車も高速化しにくい客車を持たない傾向にあることから廃止される一方になった。その中で夜行の移動手段として高速バスが誕生し、着実に夜行列車の乗客を奪っていった。
最盛期には多くの事業者が豪華な設備や専用車両を用意し、サービス合戦に突入した。その競争が一段落し、採算割れの路線からは撤退していく事業者が増える中で整理統合が進む。サービス合戦がら運賃競争に進んでしまったのがツアーバスの台頭だった。利益の出る大都市間輸送のみを低料金で提供するツアーバスには既存のバス事業者は対抗できず、競争なき中でサービスは低下していった。
ツアーバスが路線バスに転換した後も運賃では勝ち目がなく、3列が標準だったサービスが4列がデフォルトになり、トイレなし運行も増加、一方で個室化により現在は高低両極端な構造になりつつある。
昨今では高知発着のフルフラットバスが試験運行され話題になったが、これがきっかけで新しいステージに入るかどうかが注目される。いずれにせよホテルが高額で周辺地域まで探しても空室がない状況では、旅行自体をあきらめるか移動を兼ねた高速バスに頼るのは自然な成り行きと言えよう。
万博問題では船舶事業者が夜間運行の中距離便で寝ている間に往復してもらい、実質移動はせずにフェリーに泊まるぽランを出していてして散る人には歓迎されている。定期運行の夜行列車がほぼ全滅状態の現状では、多様なアイデアと運賃・料金次第では高速バスも宿泊手段の代替になり得るということのようだ。
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