古き良き、バスの活躍が多方面で多く見られていた時代のエアポートバスを、アーカイブ記事として紹介するこのコーナー。
今回は2018年5月発売号当時のお話で、空港内をターミナルから飛行機までの間を走る「ランプバス」にスポットを当てたものだ。
このバスは運賃を払って乗るスタイルのバスではないが、路線バスの中古が使われていたり、幅の広い公道を走れない車両、海外では最新の双方向に進めるバスがあったりと、興味深いバスが多い。
文/写真:谷川一巳
※2018年5月発売「バスマガジンVol.89」より
航空機利用者にランプバスは一般的には嫌われ者なのか?
「ランプバス」とは、ターミナルビルから遠く離れた駐機場にいる機体までの移動手段として使われているバスのことである。
羽田や成田空港でも使われていて、バスを降りてタラップで飛行機に乗る。こういった場所に飛行機を駐機させることを「沖止め」などといい、空港の搭乗アナウンスなどで「本日福岡行きはバスにて航空機までご案内させていただきます」などといわれると「え~、バスかよ~」などという声が漏れることがあるので、一般的にランプバスは嫌われ者かもしれない。確かに雨の日などはあまり好まれる搭乗方法ではないだろう。
飛行機が大型機の場合だと、ターミナルと機体の間をバスが何度も行き来しなければならないので、バス2台分ほどで運べる客を乗せられる機体などで多く使われていて、1台目は満席になった時点で出発、2台目は搭乗客全員が乗り終えてから出発といった運行になる。
日本人はまず乗らないであろう用途のバスもある?
運行するのは空港運営者になるが、羽田空港では東京空港交通、成田空港では東京空港交通と成田空港交通に運行を委託している。一般の公道を走るバスと違い広幅の車両も多く、こういった車両は空港内だけでしか走れない。
また成田空港には「まず日本人が乗ることはないだろう」というバスもある。国際線で到着、 日本へ入国せず、また国際線で 海外へ乗り継ぐ客のうち、異なるターミナル発着の便へ乗り継ぐ場合は、「Terminal Connection」専用のバスがある。
地方空港では、空港が直接ランプバス運行に携わっていることが多いが、車両も興味深く、路線バスの中古車両が、オリジナルのデザインそのままに社名だけを消して使われていたりする。
経費の削減を徹底させているLCC台頭でバスの需要が増加
冒頭にランプバスは一般的には好まれていない旨を記したが、近年世界中で需要が増えていることも確かである。それがLCCと呼ばれる格安航空会社が増えたことによる。
LCCは機内食を出さないか有料にするなど、できるだけ省けるものは省くという運営だが、すると空港でボーディング・ブリッジを利用するよりオープン・スポットにしたほうが、同じ空港面積でも多くの機体が駐機でき経済的である。オープン・スポットとは、タラップなどで搭乗させる駐機場のことで、冒頭に記した「沖止め」のことである。
その結果、ランプバスの需要が高まることとなった。成田空港でも多くのLCCへの搭乗は、徒歩かランプバスで機体へ向かう。ランプバス=地方のローカル空港で活躍するものではないのだ。
海外でも日本でもそうそう見ることができない特殊な車両もある
ランプバスは、海外ではさらに興味深い車両に出会える。ミャンマーの国際空港に降り立ったとき、ランプバスが元名古屋市営バスの車両で、車内には名古屋市内の歯科クリニックや産婦人科などの広告がそのまま掲出されていて、苦笑してしまったが、いっぽうで新興国でも最新の車両に出会えるのもランプバスの面白いところだ。
世界的にランプバスは、ドイツ製などの最新の車両が使われていることが多く、公道ではお目にかかれないランプバス用に開発された車両がある。そういう意味では日本のランプバスは、路線バスの流用が多いという意味でやや面白みに欠けるかもしれない。
海外では広幅やフラットな床は当たり前で、「デュアル・オート」と呼ばれる、どちらにでも進める車両も多く使われている。鉄道のように前後双方に運転台があり、どちらにでも進むことができ、前後(前後という表現も適切ではないが)どちらのタイヤもステアリングする。
このデュアル・オート・バスのなかには、車体側面から乗降する車両だけでなく、車体の前後方向から乗降するバスもある。
車体の前後方向から乗降するランプバスとしては、さらに変わった車両も使われている。「モービル・ラウンジ」と呼ばれるもので、機種によって異なる旅客機の機体高さに合わせて車体が上下し、乗ってから降りて機内に入るまで階段などの段差がない。
「バスに乗る」というより、待合室がそのまま移動して機体に横付けされるという特殊な車両で、それが「モービル・ラウンジ」という名称の由来である。