■奥10系統の全区間を乗りバスする
比較的簡単にバスがつかまる日曜日を選んで、奥多摩へと電車で向かい駅に降り立った。駅周辺は大勢の行楽客で賑わっており、休日の緩やかな空気感の中に活気があふれ伝わってくる。
駅前の道路の向かいに西東京バスの折り返し場があり、併設の2番乗り場から奥10系統が出ている。
13:20発の便を利用することにしたが、20分ほど前の時点で、乗り場には結構な行列ができていた。奥10系統は奥多摩湖周辺へのアクセス手段を兼ねているので、特に休日は一定の利用者がある。
発車時刻の3分ほど前に、折り返し場内で待機していたバスが乗り場に移動してきた。中型路線車で2011年式のいすゞエルガミオだ。後ろのドアから乗って前から降りる運賃後払い方式で、交通系ICカードが使える。
バス前面の行先表示器に、輝く星の下で遠吠えをする狼のドット絵が添えられていた。目的地の丹波山村周辺には狼の伝承があり、村のシンボルにもなっている。
表示されていたものは、2022年11月からのコラボレーション企画の一環とのことで、奥多摩駅発の奥09・奥10系統だけの特別仕様だそうだ。
■ワインディングロードを突き進め
全ての座席が埋まり多少の立ち席客が出た状態で、時刻通りに出発した。駅前通りを抜けて奥多摩駅入口交差点を左折すると、国道411号線に入る。終点までこの411号線が奥10系統のメインルートになる。
経路の性質としては「まっすぐルート」の一種に当てはまる。しかし物理的に見ると全然まっすぐではないのが411号線だ。総延長にすると120km以上ある長い国道ながら、奥多摩から先の区間は道幅が狭く、山の中腹を縫うようにして道路が敷かれている。
進行方向右側に山を見上げ、左側に奥多摩湖または崖を見下ろす構図が基本となり、左右にくねくねと曲がるワインディングロードが続く。奥10系統に使われているバス車両の、最前列の座席にだけシートベルトが付いているのは伊達じゃない。
狭い道幅に加え連続カーブが続く関係で、道路の制限速度は30kmと40kmのいずれかだ。それにしても奥10系統を平均速度で表すと26.5km/hほど出ており、テクニカルな道を通る割には都会の路線バスよりも足が速い。
■都県境は橋の上だと?
奥多摩駅から6kmほど進み、411号から一瞬だけ都道205号線に外れた先にある奥多摩湖バス停に着くと、利用者の8割がたが下車。その後一人また一人と降りてゆき、約14km地点の留浦バス停を過ぎる頃には誰もいなくなった。
この路線には難読バス停がいくつかあり、留浦もその一つ。これを「とずら」と読ませるヒントすら掴めない難しさだ。留浦を過ぎてすぐに、いよいよ都県境が迫ってくる。
地図で見て奥多摩湖の左上の端あたりに掛かっている鴨沢橋が、東京都と山梨県の境界になっていて、バスの車内でも橋の通過前に山梨県に入る旨のアナウンスが流れる。橋を渡ると、国道411号線の愛称が青梅街道から大菩薩ラインへと変わる。
■隠れたガチの山岳路線
山梨県に入ってからもカーブが続く。奥多摩駅からずっと登り坂であるが、さらに高度を稼いでゆき、車窓から景色を眺めると、ずいぶん標高の高い場所へ来たと実感できる。最も高い場所で標高670m程度まで上がるようで、ちょっとした山岳路線だ。
終点の丹波山村が近づくと若干高度を下げる。とはいえ丹波山村自体が標高600mクラスの場所に位置しており、高所に向かうのは変わらない。進行方向左側に「道の駅たばやま」が見えて来れば、終点の丹波山村役場まで数分だ。
奥多摩駅〜丹波山村役場間の所要時間は時刻表準拠で54分、運賃は交通系ICカード払いで1,038円。前述の通り、丹波山村役場から先へ向かうバスは1本も設定されておらず、来た道を戻るしか手段がないという点で、丹波山村役場バス停は「真の終着」でもある。
休日ダイヤなら、乗ってきたバスでとんぼ返りすると14:34発になり、現地滞在時間は約20分。1本後が15:50発で、そちらを選ぶと1時間半ほど周辺散策に充てられる。近くに温泉施設があり、立ち寄ってみるのも楽しそうだ。
山の中から更に山の奥を目指す、西東京バス「奥10」系統。全区間のうち山梨県内の区間が8.2kmもあり、隣県に入ってすぐ終点になる場合が多い県境越え路線バスの中で、異色の存在と言える。
【バス路線の基本データ】
西東京バス 奥10系統 奥多摩駅 → 丹波山村役場行き
・跨ぐ県:東京都 → 山梨県
・移動距離:約23.9km
・所要時間:54分
・運賃:1,040円(IC 1,038円)
・停留所の総数:52
・山梨県内の区間距離:約8.2km
・山梨県内の停留所の数:15
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