全国に25,000以上あると言われる路線バスの中で、都府県境を越える一般路線バスとなれば、極端なまでに数が減る。そんな県境越えバスの様子を見に行くシリーズとして久々に訪れたのは、山梨県／静岡県をダイナミックに跨ぐ異色のロングランナー「富士急バス S4系統」だ!
文・写真：中山修一
（バスマガジンWeb／ベストカーWebギャラリー内に、富士急バスS4系統の写真があります）
■「こんなバスあるんだ!?」な感動
山梨県の富士山周辺といえば、公共の足として数多くのバスが用意されていて、比較的短い距離は一般路線バス、都市間移動となれば高速バスのような、バスが移動の主役を担う他の地域と同様に、バスのジャンルがある程度棲み分けされている印象を受ける。
そんな中、バスの時刻表や路線図を眺めていると、一般道のみを通って驚くほど長〜い距離を走る路線バスが、ポツリと1本だけ運行しているのに気付く。富士急バスによる「S4系統 新富士線」だ。
S4系統 新富士線は、富士急線の富士山駅前と、路線名にもなっている東海道新幹線の新富士駅を結ぶもので、1度になんと70km以上の距離を走る。
北海道あたりに行けば70kmクラスのバスはごく普通にあるが、本州の山梨エリアとなれば「もう高速バスの範疇では?」と思わせるスケール感。そこを一般道オンリーで完結しているのが二度見のしがいのある所で、「こんなバスあるんだ!?」な感動に繋がってくれる。
■1日3本の狭き門
富士五湖周辺から新富士方面へ直で抜けられる公共交通機関は、タクシーを除けば富士急バスS4系統しかないようで、直通ルートを固める主要路線なのかと想像したくなる。
ところがダイヤを見てみれば、1日3往復と極細系。結ぶ場所同士は便利そうに見えるけれど、実際そこまで使う人のいないローカル線……そんなバス像が漂ってくる。
これまで試した距離長めの路線バス各線の全体的な様子を踏まえると、極細ダイヤのものは大体終始ノンビリしていて、流れゆく景色をゆったりまったり眺めながら、路線バス旅が堪能できるといったイメージだ。
■クルマもしっかり普通していた!!
実際のところS4系統はどんな感じなのか、2025年11月の終わり頃に様子を見に行ってみようと、富士急線の富士山駅に降り立った。
駅前4番乗り場が始発で、出発時刻が近づくにつれてポツポツ利用者と思しき人々が集まってきた。富士五湖周辺の場所柄から、大きなスーツケースを引いたインバウンド系が大半を占めている印象で、よく聞こえてきたのは英語と中国語。
出発時刻ぎりぎりに「S4 新富士駅」と表示された車が入ってきた。車種は富士急山梨バスの大型路線車（2018年式日野ブルーリボン）。
路線的には一般道オンリーながら、長距離を走る場合は高速バスとほぼ同じハイデッカー車が使われることも珍しくないが、この新富士線は車両もごく普通の路線車であり、より純度の高い長距離一般路線バスということになる。なおバスの区分は「快速」とのこと。
■「思ってたのと違う!」な衝撃
始発の時点で10人ほどが乗車。バス停に列はできていたけれど、例によって我先にな使用言語的には大陸系の御仁が発生したのは「どうせそうだろうと思ったよ」と受け流すしかないのだろうか??
富士急バスは一部のエリアでタッチ決済に対応している。ただし新富士線の場合は対象外となっていて、それに戸惑っているインバウンドさんが6人くらいいて、運転手さんが説明に苦慮していた。
乗車に戸惑いバスは数分遅れて出発。やはり場所が場所だけに観光利用が若干多いにせよ、10人くらいでそのままグリグリ進み、基本的にはごくスタンダードなローカル路線バス旅になるのかな、と予想。
ところがそれはものの10分で音を立てて崩れた。このバスは富士山駅を出てから、富士五湖エリア最大のポータル・河口湖駅前を通るのだ。
S4系統が停まった河口湖駅前の乗り場、そこには大荷物を抱えた溢れんばかりのインバウンドさん。まさかこれ全員乗るの? うん全員乗ったね。
あ〜、まったりローカル路線バスの旅が一瞬にして朝8時の東急田園都市線に変わっちゃったよ……ほんとにこれ1日3本しかないバスなの? バス像と利用状況がとてつもなく合致しない初のパターン。「思ってたのと違う!」そんな風に叫びたくなってしまう。
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