バス事業者とそれに関わる歴史をたどるこのコーナー。長く紡いできたバスの歴史を振り返るバスマガジンの人気連載が「バスのちょこっとヒストリア」だ。
名古屋市昭和区。名前からいかにも昭和の香りのする行政区であるが、名古屋市のほぼ中央に位置しながら昔の面影を色濃く残している道がある。地元の人はその道の名を「郡道」と呼ぶ。
取材・執筆:諸井 泉(特記を除く/バスマガジンvol.82・2017年3月発売より)
※内容は2017年の取材時のものです
◆資料収集及び取材協力
市営交通交通資料センター
日本バス友の会バス資料室
◆参考文献
市営50年史(名古屋市交通局 1970年発行)
市営交通70年のあゆみ(名古屋市交通局平成4年8月発行)
THE SHOWA 郡道(名古屋市昭和区発行)
【画像ギャラリー】狭隘路専用の「郡道バス」が運行されていた道。そして現在
わずか3mの幅員でありながらかつて市営バスが走っていた
昭和区の滝子から荒畑、吹上にかけての道路はかつて「郡道」と呼ばれていた幹線道路で、道の両側にはかつて賑わっていた商店街の面影を今に残している。
その郡道を市営バス滝子バス停から吹上・古井ノ坂へと歩いてみた。商店街の一角にある「御菓子司吉乃屋」では、店中に紅白の丸餅を並べてお餅作りに励んでいた。お店に入ってみると店内のいたる所に紅白の丸餅が並んでいる。
「明日は地元の神社のお祭りで餅投げに使うお餅を作っているのですよ」と言って応対して頂いた女将森瀬吉國さんに話を聞くと、この地域は戦時中の空襲被害を受けなかったため昔ながらの街並みが残っているとのことで、わずか3m幅の道路でありながら、かつては市営バスも走っていたそうだ。
道路わきで掃除をしていた別の女性に市営バスについて聞いてみると「廃止になったのが昭和41年1月15日でした」と、年月日がすらすらと口から出てきたので、びっくりして聞きなおしてみると「私がここへ嫁に来る前日に市バスが廃止になり、昨日までバスが家の前を走っていたのよ」と家の人に聞かされたということを話してくれた。
この郡道を歩いていて、ふと興味深いことに気が付いた。名古屋市交通局発行の名古屋市バス・地下鉄路線図を見ると、郡道と交差している通りにはバス路線が交差し、交差点には滝子・荒畑・曙町一・吹上・古井ノ坂と必ずバス停があるのだ。このことはかつてこの道が幹線道路で、人々の往来が多かったことを裏付けている。