「バス」と呼ぶのは日本と英語圏だけ!! 欧州では「ブス」が主流だって知ってた?

「バス」と呼ぶのは日本と英語圏だけ!! 欧州では「ブス」が主流だって知ってた?

 多くの人を乗せて走る箱型の大きなクルマをどう呼ぶかと聞かれれば、ほとんどの人がバスと答えるはずだ。バスはバスであって、それ以外の表現を考える必要が150%ないほど、今では当たり前の言葉……。

 今日もバスはバスの名で親しまれ、そう呼び続けられるのだ。ではこのバスという言葉、どこから来たのだろうか?

文・写真:中山修一

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諸説あります!バスの起源

 出尽くされた話ではあるが、バスはラテン語のオムニブス(omnibus=万人のための、というような意味)が語源で、1820年代にフランス西部の街・ナントで営業していた乗合馬車をそう呼んだのが始まりと言われている。

 馬車が通る道の近くにあった、「OMNES Omnibus」と書かれた(経営者の名前を文字ったダジャレらしい)店の看板を見た人たちが、そのうち馬車までOmnibusと言い出した「できちゃった」説と、最初から乗合馬車をOmnibusの愛称で広めようと、運営者側から言い出した「作られた」説があり、どちらが本当なのかは分かっていない。

この画像のような形のクルマを見て、それを示す言葉として真っ先に連想するのは「バス」だろう。
この画像のような形のクルマを見て、それを示す言葉として真っ先に連想するのは「バス」だろう。

欧州はブスがお好き? 世界の「バス」

 フランスを皮切りに世界中へと広まったOmnibusであるが、今日の各国語では「バス」をどう表現するのだろうか。各国の原語に忠実な発音を、日本語の文字で正確に表すのは不可能であるのを断っておかなければいけないが、だいたい似た雰囲気の発音になる文字に置き換えてカタカナイズさせてみると、以下のようになる。

フランス語:オートビュス
ドイツ語:アウトブス、ブス
イタリア語:アウトブス
スペイン語:アウトブス
チェコ語:アウトブス
ロシア語:アフトーブス

中国語:バーシー、ゴンゴンチーチャー
韓国語:ポス
タイ語:ロット・メー
ベトナム語:セ・ブィ
英語:トランジットバス、バス

 実は「バス」は主に英語圏の言い方で、欧州全体で見ると「ブス」と発音する国のほうが多いのだ。日本語の意味で考えてしまうと大変な違和感を禁じ得ないものの、ところ変わればブスはブスなので、ここでは日本語でのニュアンスを抑えつつ見ていきたい。

 どこの国も、ブスは乗合馬車などのことも指すため、自動車を意味するAutoに相当する言葉とつなぎ合わせて表現される。とはいえ最近は馬車のほうが少ないのもあり、ブスだけで通じる国や地域も多い。

 一方のアジア圏の各国では、中国語のバーシーや韓国語のポスのように、外来語であるバスの当て字が“帰化”したケースもあるが、その国の言葉に則った言い回しに変化しているのが興味深い。

 ゴンゴンチーチャーを漢字で書くと公共汽車、ロット・メーは郵便車が語源、セ・ブィはフランス語起源のオートビュスがベトナム語に最適化されたもの、となっている。

 ちなみに、上記のバスに相当する言葉はどれも市内向け路線バスのことを指し、観光バスや長距離バスは表現がまた異なる(英語ではコーチ、インターシティバスなど)。

 日本語でもバス=路線バスのイメージが強く、長距離バスは「高速バス」のような別の呼び方をすることが多いので、ある程度の区別を付けるのは各国共通と言えそうだ。

ドイツ語ではバスのことをアウトブス(Autobus)と言う。短縮させた「ブス」でも通じる。
ドイツ語ではバスのことをアウトブス(Autobus)と言う。短縮させた「ブス」でも通じる。

日本は昔からバスだった?

 日本語では「バス」があまりにも広く使われるため、最初からバスだったのかと言えば実はそうでもなく、鉄道時刻表など刊行物の上では、今日のいわゆるバスは当初「乗合自動車」と表現されていた。乗合自動車にはタクシーも含まれるため、判別しやすいように定期乗合自動車と記す年代もあったようだ。

 全国版の鉄道時刻表では、路線バスの時刻が掲載され始める1920年代〜少なくとも1940年代後半まで、乗合自動車の総称で統一され、1950年代から「バス」の記述が一気に増えてくる。

 バスという言葉自体が一般に浸透し始めたのは昭和初期と思われる。紙媒体では1926年を境に「バス」の記述が頻繁に見られるようになり、1930(昭和5)年発行の『大東京寫眞帖』にある、東京の路線バスを紹介するページでは、既にバスという言葉が自然に使われているのが窺える。

 また、関東大震災直後に急ぎで作られた東京のバス車両の外見が、旧世代の馬車に似ていたことが転じて「円太郎(御者のラッパを吹いて登場するスタイルで有名だった落語家の名前)」の愛称がつき、その後もしばらくの間は、バス=円太郎という認識も一部地域であったらしい。

 日本語でのバスは言わずもがな英語のBusから来ているが、日本国内で誰がいつ使い始めたのか定かではなく、自然に広まっていったと思われる。

 戦前の日本は、英語のほかドイツ語が今よりずっと一般的であったようだが、Busの場合は英語発音が採用されている。当時、諸外国の公共交通機関をお手本にしようと、アメリカや英国を視察先に選ぶ機会が多かったようで、それに準じて「バス」の発音に落ち着いたのかも知れない。

 それ以前に、さすがにドイツ語読みのブスではフツーに都合が悪すぎたとも考えられるが…。

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