路線バスの座席といえば、進行方向の前を向いて座るタイプが普通で、通勤電車のような横向きの座席・ロングシートを取り付けた車両はいま、ほとんど見かけない。それは何故なのだろうか?
文・写真(特記以外):中山修一
昔はロングが普通だった!?
今となっては信じがたい話に思えるが、なんと路線バスの座席はかつてロングシートのほうが当たり前だった。中・長距離向け車両が前向き、短距離向けの車両はロングと、用途に応じて棲み分けされていたわけだ。
戦前の外付けフェンダーの時代から路線車の内装はロングが主流。これは路面電車や通勤電車に倣い、短い距離を利用する分にはロングの方が便利と見られていたようだ。
実際、ロングシートには着席・離席がしやすいというメリットがある。さらに通路の床面積を広く取れるため、車内の移動と乗り降りがより円滑になる。
大昔の路線バスには車掌さんが乗っていた。お客さんが席に着いてから走行中などに切符を売りに行くスタイルだったので、ロングシートなら車掌と乗客が対面になり比較的容易にやり取りができた、とも考えられる。
常識が非常識に変わる時代
利用面でも運用面でも都合が良いと見られた路線車のロングシートであるが、時代の流れによって見方が徐々に変わっていった。
着席・離席がしやすい反面、加減速や方向転換が頻繁に行われる自動車で横向きに座ると、体のバランスを取りづらいのだ。実際ロングシートのバスに乗ると、走行中に前向きシートのクルマでは使わないような部分に力を掛ける感じがする。
ロングシートの構造がもとで起こる車内での転倒事故が次第に懸念事項へとシフトしていき、短距離用の路線車にも前向きシートを標準で取り付ける動きが活発になった。
そのほか、個人差はあるものの自動車では前向きより横向きのほうが酔いやすかったり、車内が電車より狭いバスで乗客同士が対面で座るのは恥ずかしいと捉える意識の変化も、ロングシート衰退の要因に繋がったのかもしれない。
1980年代には前向きシート車とロングシート車が混在して使われていたが、1990年代に入ると、ごく一部の事業者で採用されるに留まるレアな存在へとすっかり転身した。
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