都市部で見かける「バス優先車線」はお金をかけずにできて効果も大きい制度だ!!

■ネックの橋が朝は事実上バス・タクシー専用に

信号の左に一般車時間規制標識があり、続行するバスはスムーズに走を渡って駅方面へ
信号の左に一般車時間規制標識があり、続行するバスはスムーズに走を渡って駅方面へ

 もうひとつ事例を見ていただこう。もう1枚の写真は島根県松江市の、宍道湖と中ノ海をつなぐ大橋川にかかる松江大橋を渡る路線バスである。

 もともとこの橋は、松江駅周辺地区と県庁・市役所・県民会館などのある松江城周辺地区の二つの都市拠点を結ぶルートで、ほとんどのバス路線がこの2地区を通る関係で、松江大橋には一畑バス・松江市交通局2事業者のバスが両方向ほぼひっきりなしに走る中心交通軸をなしている。

 「水の都」と呼ばれる松江市にとって、河川は市民の心のよりどころではあるが、川を渡る橋に交通が集中することでネックを生じるのはどこの都市も変わらない。

 松江市でも新松江大橋や宍道湖大橋などができたことによってある程度交通量は分散したが、一定量が集まる松江大橋は、周辺道路が狭いこともあってバスの定時運行の阻害要因になっていた。

 そこで1990年代の交通社会実験などを通して実施されたのが、松江大橋の朝ラッシュ1時間を、事実上バス・タクシー専用とする交通規制である。

 松江駅の方から大橋通りと呼ばれる通りを北上し、松江大橋の手前の交差点に差し掛かると、ひとつの交通標識が目に入る。

 平日7時30分から8時30分までの時間規制で、青地の丸板の中に両方向に曲がれという白い矢印。「路線バス・タクシー等を除く」と補助標識に記されている(二輪車はOK)。反対側の松江城方面から来ても同様の規制標識がある。

 これにより、大橋通りを走る一般車は、朝ラッシュ時は松江大橋には入れず、手前の交差点で右折または左折をして他の橋に回らなければならない。

 すなわち松江大橋を渡れるのは路線バスとタクシー等だけというわけである。朝の通勤通学時間とあって自転車の往来が多いので、車線一杯のバスにとっては走りにくそうな場面はあるものの、多数の系統がいわば束になるこの区間が事実上バス専用となってスムーズに走れるようになった効果は大きい。

■お金をかけず交通規制だけで効果を呼ぶ

 盛岡市と松江市の事例を見ていただいたが、両者の優れているところは、いずれも交通規制を変更するだけでバス優先~スムーズな運行を実現したことである。

 道路を拡幅したり交差点を改良したりといった土木工事を一切せず、道路インフラには全く変更を加えずに、交通標識を1つ追加しただけで効果を上げたところが高く評価されよう。

 そしてそのことは、別の言い方をするとほとんどお金をかけずに実行したバス優先策ということである。この施策をハードかソフトかと問われれば、ハードに分類されるが、ハード施策を、お金をかけずにできる方法もあるということを示している。

 この方式の実現には、交通管理者すなわち警察の理解が必要である。

 盛岡市、松江市ともに深刻な道路混雑を解消し、公共交通を活用したまちづくりを進めるという大きな方針のもと、関係する警察とも十分な協議を重ね、市の行政にとっては公共交通をレベルアップさせて利用促進を図ることで市民生活を豊かにし、警察にとってはネックとなる地点での渋滞解消や旅行速度の向上、交通安全を実現するという、一挙両得の合意点を見出したということである。

 さらに言えることは、これはあくまで交通規制なので、無視すれば明らかな交通違反になり、キップを切られる、すなわち一般車の遵守がかなりの確率で見込める施策ということにも注目しておきたい。

 実際松江大橋南詰に規制時間に立って見ていると、たまに知らなかったのか知っていても気づかなかったふりをしていたのか、大橋に進入する一般車が数台はいたが、おおむねみんな手前で右左折をしていた。

 そしてもう一つの評価点を言えば、これらの施策はマイカーを排除するわけではないということである。

 盛岡のケースも松江のケースも、マイカーの都心乗り入れまで規制しているわけではない。マイカーで都心に入ることはできるけれども、集中する時間帯は最も近いルートはバスに譲っていただき、少し回り道をしてくださいね、という考え方である。

 実はこのような考え方は欧米ではかなり定着しつつあり、筆者が見てきたバルセロナ(スペイン)やポートランド(アメリカ)では、マイカーが都心部へ入って交通規制に従って走っていると、駐車場に誘導されるようにできている。

 つまり都心に用事のないマイカーは進入する意味がないので、都心の交通量は交通規制によって制御されるのである。

 まずはバスをスムーズに走らせる施策は大きなインフラ投資をともなうのでなかなかできないという考え方を捨てよう。市民、行政、交通事業者、警察がそれぞれ提案し意見交換できる機会をつくり、個別の状況に応じて交通規制をちょっと変えるだけでできる廉価なバス優先策を模索してみたい。

 まずは今回、それができている都市があることを知っていただければと思う。

最新号

【9月20日発売】巻頭特集は「東急バス」!! ほか楽しいバスの企画満載の バスマガジン126号!!

【9月20日発売】巻頭特集は「東急バス」!! ほか楽しいバスの企画満載の バスマガジン126号!!

バスマガジン Vol.126は9月20日発売!! 美しい写真と詳細なデータ、大胆な企画と緻密な取材で読者を魅了してやまないバス好きのためのバス総合情報誌だ!!  巻頭の[おじゃまします! バス会社潜入レポート]では、東急バスを特集。東京都から神奈川県において都市部から住宅地、田園地帯まで広いエリアを綿密なネットワークを展開、さらに高速路線バスやエアポートリムジンも大活躍。地域住民の足としてはもちろん、首都圏の動脈ともいえる重要な存在だ。  続く特集は、ついに日本に上陸しさらに種子島での運行が決まった、ヒョンデの電気バス[ELEC CITY TOWN]の試乗インプレッション。日本におけるヒョンデの本拠地である横浜・みなとみらい地区で、徹底的にその性能を確認した。  バスの周辺パーツやシステムを紹介する[バス用品探訪]では、なんと排出ガスからほぼ煤が出なくなるというエンジンオイルを紹介。この画期的な商品「出光アッシュフリー」について、出光で話わ聞いてきた。  そして後半カラー特集では、本誌で毎号、その動向、性能を追跡取材してきた「カルサンe-JEST」。このトルコ製小型電気バスがついに、運行デビューを果たした。その地は長野県伊那市と栃木県那須塩原市。今後の活躍が期待される出発式を紹介する。