テールランプや窓など、バスの各部には、年代によってトレンドみたいなものが少なからずある。では、路線バスの「前ドア」にトレンドの変遷は見られるだろうか。
文・写真:中山修一
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■「家の扉」みたいなスイング式の扉
今日、路線バスの前扉と言えば、前輪よりも前に設置された乗降用扉のことを指すのがほとんどだ。
しかし、車掌さんが乗っていた時代の路線バス車両には扉が1カ所しかなく、しかも設置位置が前輪の後ろ、というのが普通だった。
大昔のバスにはそもそも前扉自体が無いとも取れるのだが、ここでは、そういった古いタイプの車両の扉も「前扉」の一種に含めて話を進めていきたい。
まずは戦前の、乗用車やトラック改造ではない、バス専用のボディを乗せた車両が登場した頃の前扉はどうなっていたのか。
当時の写真を見る限り、扉の片側にヒンジを取り付けてボディと繋ぎ合わせた、いわゆる普通の扉が主流だったようだ。
現在のバス車両ほど長身ではないにせよ、箱状になっている客室部分の扉は縦に長く、どちらかと言えば今日の普通乗用車というより家の扉に近い形だ。
普通の扉が一般的だった時代はまだ手動式が当たり前で、基本的には外側に開くスタイルになっている。
■長〜く続く折戸の時代
バスの前扉に普通のヒンジの扉が使われていた1930年代から、2枚の板をヒンジで繋ぎ合わせて折り曲げられるようにしたものを、片側だけさらにヒンジで車体と繋ぎ合わせた「折戸」が次第に使われ始める。
開けた際にドアが車体の外側にせり出さないため、他の車や人と接触する危険性がなく、間口を広く取れる割に少ない動きで開閉できる折戸は、路線バス車両との相性が良く、各メーカーの車両で標準となった。
車掌さんが手動で開け閉めしていた折戸の車も多々存在した。ワンマン化が進むにつれて自動ドアへとシフトしていったが、折戸は折戸のまま、その後長きにわたって前扉のトレンドであり続けている。
■大きな動きはバリアフリーから!?
新しくなるにつれてガラスの面積が増えていくなど、見た目こそ年代によって結構違うものの、原理はさほど変わらないまま折戸は今日まで推移。2023年現在製造されている一部メーカー製路線車でも折戸を依然採用している。
折戸は今も現役と言えるが、トレンド的には2000年代初め頃に大きな動きがあった。路線バス車両への「グライドスライド扉」の本格投入だ。
グライドスライド扉は、2枚の板を用いて扉にしたものだ。これらの板を人に例えると、扉が閉まっている時は、2人とも車外に向けて前を向き横一列に並び、出入口の通路を塞いで立っている形になる。
扉を開くと、外から見て左側の人は「右向け右」・右側が「左向け左」を行いつつ、それぞれ出入口の両脇に立ち位置をずらして通路を空ける。開いている間、両者は通路を挟んで背中を見せ合う状態だ。
折戸で扉を畳むのに必要なのと同じくらいのスペースで、折戸よりも更に広い間口を取れるのが、グライドスライド扉の利点だ。実測で20〜25cm程度広くできるようだ。
グライドスライド扉の研究は1970年代から行われていたが、路線バスへのバリアフリー化が急速に進んだ時期に、特性の都合が良いということで、特に大型路線車の前ドア用として新しいトレンドになった。
全メーカーの車種がグライドに完全シフトしたわけではないが、最近の標準仕様ノンステップ車の前ドアは、従来からの折戸とグライドスライド扉が人気を二分するくらいになっている。
バスの歴史を辿ると、ここ100年ほどの間で前扉のトレンドは2回しか変わっていないことになるようだが、1回ごとの構造的な変化の度合いは劇的に大きい気がする。
【画像ギャラリー】今は折戸とグライドの2通り!! 路線バスの前ドア(5枚)画像ギャラリー
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