いろいろな開閉の仕組みがある路線バスのドア。その中に、中央を境に左右へ開く折戸のドアを後ろ側(中側)に取り付けている車両が一部で見られる。あのタイプのドアにはどんな特徴があるのだろうか。
文・写真:中山修一
■導入のきっかけはラッシュ対策
板を複数枚組み合わせ、それを折り畳んで開く扉=折戸には、ヒンジ式の扉や引き戸に比べると、少ないスペースで幅の広い出入口を作れるメリットがある。原理自体は非常に古いもので、1世紀頃には既に実用化されていた。
そんな「枯れた技術」の折戸がバスに採用されたのもまた相当古い。
日本の路線バスでは、板を2枚組み合わせた片開きタイプの折戸が広く採用されていたが、それを2セット使い両開き式にした「4枚折戸」が登場したのは1960年代と言われる。
当時の路線バスにはドアが1箇所しかなく、利用者の多い路線ではラッシュ時間帯での乗降に難があり、遅延の原因にもつながっていた。
ドアの幅を広げて、右半分を乗車用・左半分を降車用のように、同時に乗降が行えれば改善が期待される。しかしバス車体はスペースに限りがある。そこで折戸をペアで用いて対応したわけだ。
4枚折戸を採用した路線バス車両は、用途・目的そのままを語源に「ラッシュバス」とも呼ばれる。
■その効果は抜群だった?
路線バスが今日に通じる2扉ワンマン車に代わって以降、4枚折戸をいち早く採用したバス事業者は、1972年9月から導入を始めた九州の西鉄だった。
車両後ろ側のドアで、通常の引き戸タイプは80〜85cmくらいの幅だ。それに対して4枚折戸は有効幅で1.2〜1.3mほどある。
人の肩幅を平均すると45cmくらいなので、理屈の上では4枚折戸なら二人が同時に並んで乗車または降車ができる計算だ。
2扉車の場合、乗降を同じ出入口で扱うケースは稀になったものの、幅が広い分には一方通行でも効果が得られるということで、1980年代に入ると首都圏でも4枚折戸の路線バスが広まっていった。
■だんだん姿を消していったのにはワケがある
ラッシュ時の円滑運行に少なからず貢献していた4枚折戸の路線バス車両であったが、2000年代の中頃を境に、まずは首都圏から姿を消し始めた。
効果があったハズなのに数が減るのも不思議な話であるが、それには切実な事情・バリアフリー法の施行が関係している。
2023年現在、実は新車で購入可能なバス車体にも4枚折戸のオプションは残っている。ただし「ワンステップ車のみ」という条件が付く。
ノンステップ車にも4枚折戸を付けようと思えば付けられなくもないだろうが、折り畳まれた扉が車内に引っ込む構造上、ドアの周囲に開閉スペースを設ける必要がある。
ワンステップ車ならステップ下の部分がそのままドアの開閉スペースに使えるので影響ない。しかし床が出入口までフラットなノンステップ車では、一目で「ドアが来るから立ってはいけない」と分かる境界線を作るのが難しい。
黄色い線を床に引いて注意を促したところで、意外とそういうものに限って全く考えずスルーしてしまうのが人のサガというものだ。
4枚折戸のノンステップ車が作れないのは、ドアの開閉スペースに立っている人を巻き込んでしまう可能性があるなど、もっぱら安全上の理由が大きいと見られる。
バリアフリー法以降、首都圏では大抵の事業者でノンステップ車を導入するようになったため、ワンステップしかない4枚折戸の路線車は自動的に選びにくくなったわけだ。
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