他の交通手段よりも少ない予算で、長い距離を移動できるのが魅力の夜行バス。海外にも夜行バスは沢山走っているが、例えば日本と欧州の夜行バスを乗り比べると、安さとの引き換えと言われる夜行バス特有の“ツラさ”はどれくらい違うのだろうか。
文・写真:橋爪智之
構成:中山修一
(日本/欧州の夜行バスにまつわる写真付き記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)
■夜に走る乗り物の代表格
日本では、夜行列車の大半が廃れてしまった現在、貴重な夜間移動の手段として、フェリーと共に親しまれている夜間高速路線バス。
大都市間を結ぶ路線だけではなく、鉄道で結ばれていない大都市と地方都市との間もダイレクトで結ばれており、価格も鉄道より控えめに設定されていることから、若者を中心に人気となっている。
座席のタイプも、4列の標準的な仕様から3列独立シート、最近では個室のように1席ごとにパーテーションで仕切られたものまであり、自分の懐事情に合わせて座席を選べるというのもバスならではだ。
■欧州の夜間高速路線バスは
夜間高速路線バスは、もちろん海外にもある。欧州各国ではかつて、都市間を結ぶ路線バスの運行は、他の交通機関との競合を避けるために制限されていた。
しかし、21世紀に入ってからEUの指令により規制が撤廃され、国を跨いだ都市間高速バスの運行が可能となった。
当然、長距離路線には翌日着となる夜間運行の路線も多く誕生し、いくつもの国を跨いで20時間近く走り続ける路線もある。
運賃は距離や区間にもよるが、早割のような安いもので10数ユーロというものまであり、他の交通機関と比較してもかなり安い。
日本の旅好きブロガーやユーチューバーの中には、どうしてこれを利用しない手があろうか、のように礼賛しているところもある。
実際、鉄道やLCCの低価格運賃と比較して、路線バスの価格が最も安いのは間違いないが、日本の夜間高速路線バスのようなイメージを抱いてこれを選択すると、考えていたのと違う……と感じる可能性がある。
■圧倒的なシェアを誇るフリックスバス
欧州にもいくつかのバス会社があるが、その中でも圧倒的なシェアを誇るのがフリックスバス(Flixbus)だ。
この会社は、欧州各国における路線の設定や運賃の決定、車両の運行管理を行うのが主な業務となっており、自社が保有する車両はバス会社として登記するためだけに購入した1台のみで、営業には使用されない。
実際の運行は、各国の地元にあるバス会社がフリックス社に委託される形で行っている。使用される車両は、もちろん観光バスなどで使用されるスーパーハイデッカーや2階建て車両で、これは日本のバスと変わらないが、内装やサービス内容は大きく異なる。
まず、日本で見られるような夜間高速路線バスの専用車両ではなく、通常の4列座席車が使用され、シートピッチはかなり狭い。
リクライニングはそこそこ倒れるが、前の座席も同じ角度だけ倒れるので、倒されてしまうとその窮屈さは相当なものとなる。車内にはトイレが設置されているが、窓側に座ってしまうと席を立つのも一苦労となる。
■苦痛を伴う硬い座席
そして最も辛いのは、座席の座り心地である。これは感覚的な話なので、あくまで筆者の主観であるという前置きをさせて頂くが、とにかくどの会社のどの座席も、座面が非常に硬いのだ。
昨今は「座面が硬い方が疲れない」などと言われ、バスに限らず鉄道や航空機でもやたらと座面の硬い座席が増えているが、これが筆者の身体には全く合わず、すぐにお尻が痛く足が痺れてしまうのだ。そのうえ、バスの座席はこれらの中でも際立って硬いものが多い。
航空機なら、欧州域内なら長くても2時間半程度なので我慢できるし、鉄道の場合は同じ距離を4~5時間掛けて走るが、航空機やバスと比べれば座席周辺のスペースが広く、気分転換に席を立つこともできる。
もちろん、夜行の場合は寝台車という選択肢もある。しかしバスの場合は、狭い座席にシートベルトでしばりつけられ、トイレ以外で席から立つことは、2時間ごとに設けられる休憩時間以外では認められない。
この状況で長距離を走行、しかも夜行ともなるとかなりの疲労感に襲われる。4列席のため、隣に大柄な男性が座ると、ほとんど身動きが取れない状態となる。
実際、15時間以上の夜行路線に乗車したことがあるが、下車した頃には足腰も首も激痛が走り、睡眠不足もあって翌日は1日中、自宅で伏せることになってしまった。
ドライバーの運転も、日本と比較すると少々荒く、車線変更も急激に行うため、結構揺れることがある。
フリックスバスは一時期、事故が頻繁に発生し、運転手の労働環境に問題があるのではないか、と言われていた。低すぎる運賃のしわ寄せが、運転手の過酷な労働環境に拍車を掛けている、という指摘もあった。
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