バス運転士不足問題は一向に解決の兆しを見せず、生活路線にまで確実に影響が及んでいる。労働環境や待遇の改善が叫ばれているが、なかなかうまくはいかない。そのあたりの相反する条件についてはジレンマを抱えているのも事実だ。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
(写真はすべてイメージで本文とは直接関係ありません)
■労働環境
運転士が不足していることにより、現状のダイヤを維持するのはもはや不可能になっている。よって間引きしたり、路線を統廃合したりしてしのいでいる。自治体やバス事業者が一体となり、例えば運行体系を根本から変えて物理的に必要な運転士の数を減らす等の施策が示されているところもある。
バスの路線をターミナル間でぶつ切りにして、乗客には乗り換えをお願いする代わりに各地域から市街地中心部に乗り入れるバスの本数を減らそうというものだ。こうすれば拠点間だけを大型バスで輸送し、拠点から地域までの路線を別途運行すればよい。
これにより路線短縮が実現し、運転士の運転時間が減るので労働環境の改善につながるというものだ。ただし旅客には必ず乗り換えが発生し、「バスで一本」という便利な通学、通勤、通院、買い物等が若干不便になる。運賃がぶつ切りになることから割高になることが予想されるが、これはICカードによる自動割引を施せば何とかなるのかもしれない。
■運転時間が減ると…
アルバイトやパート運転士、あるいは契約社員扱いの運転士の場合は時給制がほとんどなので勤務時間が減れば自動的に収入が減ることを意味する。正社員で月給制であっても、全体の労働時間が減っていては収入が上がることは考えにくい。
ここにジレンマが存在する。時給制の場合は時給を上げ手取り収入を減らさない、月給も上げて労働時間が減るのであれば、職業としての魅力は増すが果たしてそれが出来るかどうかは疑問だ。できるのであればバス運転士は不足していないはずだからだ。
■ワンマンバスは仕事が多すぎる問題
現在のワンマンバスは運転の他に旅客対応として運賃収受、それも複雑な支払い手段に対応した運賃箱の操作や、事業者によっては運賃箱から企画乗車券を発券できるものまであるので、その操作やドア扱い、自動放送装置の操作等、多岐にわたる仕事を一人でしなければならない。
これも労働環境悪化の一因になっているのは事実だが、これらの旅客対応を車掌に委ねるのも一案だが、最も高くつく人件費が重くのしかかるので、なんでも人力に頼っていた昔ならいざ知らず、今の時代にツーマンバスは実現不可能だろう。
■自動無人運転はまだ先の話
究極の合理化は運転士の要らない無人の自動運転になることだが、各地で行われている実証実験で無人運転を実施している実用的なバスはほとんどない。非常時のために運転士が乗務しているか、無人であってもオペレーターが乗務しているかといったところだ。
何がどう移動しているのかわからない道路交通で今のような運転士が運転するバスを無人化するのは至難の技で、実現はまだまだ先の話である。いち早く実現するには他の交通が入らない前提のバス専用道路にして、バス停はホーム方式にするしかない。
■運賃値上げだけでは赤字を埋めることしかできない
収益性の高い高速バス路線を増便して改善しようとしても、すでに高速バスに回す運転士がいないのが現状で、常時満席状態の高速路線ですら増便ができない事業者がほとんどである。
よって路線バスの運賃を値上げすることになるが、それとて赤字を埋める程度にしかならず、運転士の待遇改善まで及ばないのが現実だ。国が運転士を国家公務員として採用し、各事業者に出向させるくらいの思い切ったことをしないと運転士のなり手がいない状況は改善しそうにない。
国は運転士の労務関係の面倒だけを見て、賃金の支払いも国からする公務員扱いとして事業者から一定の派遣料を支払ってもらう等の仕組みとするならば、事業自体は赤字になるのは間違いないだろうが運転士の確保は問題なくなるだろう、
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