スーパーシャトルバスを運行する運転者や運営管理者は、事務所棟に併設された宿泊施設に滞在して業務を行っていたが、運行に携わる管理棟や宿泊施設の使用想定年数はわずか半年で、簡易プレハブ造りの実に簡素な造りであった。
(記事の内容は、2022年11月現在のものです)
執筆・写真(特記を除く)/諸井泉(元シャトルバス中央事業所第6グループ運営管理者)
※2022年11月発売《バスマガジンvol.116》『日本を走った初めての連節バス』より
■狭い宿舎には冷房はあったが暖房はコタツ1台だけだった
運転士たちにとって、宿泊施設に業務滞在中の唯一の楽しみである食事も、食堂で提供されるメニューも質素なものであったので、各自がそれぞれ工夫をこらしながら業務と生活を行なっていた。
施設の造りの概要は後述の通りであるが、管理室は管理棟の1階にあり、運営管理者が常駐して、運転士への点呼が行われていた。管理室の真ん中に庶務係の机があり、運営管理者の机は管理室いっぱいに10グループの机が並べられていた。
各グループの点呼場のスペースはわずか2坪ほどしかなかったが、その壁に安全運行のスローガンを掲げたり、釣り好きの多いグループは魚拓を貼ったりして楽しんでいた。
宿泊棟の部屋は160室あったものの、スーパーシャトル運転者や運営管理者のみならず、警備会社の警備員の宿泊施設にもなっていたために、各バス事業者に割り当てらてる部屋数には制限があり、10m2しかない部屋に2人が宿泊していた。
この部屋にベッド2つ、ロッカー2つ、コタツ1つが供えられていた。都内のビジネスホテルのシングルルームの大きさが約13m2であることを考えると、あまりにも狭い住環境であった。
空調が冷房だけであったのは、寒い時期は開業間際の1カ月程度と予想されたことから。暖房設備はなかった。暖房器に代わるものとして搬入されたのが電気コタツであった。このように、利用期間がわずか半年間のため、徹底的にコスト削減が図られていたのだった。
■国家プロジェクトの一翼を担っていることへのプライド
食堂は管理棟の1階に大食堂があり、利用席数は100~120席で朝・昼・夕食が提供されたが、メニューは2種類の定食とうどんとそばだった。定食のおかずは揚げ物が中心で、油が悪いせいか食べると胃もたれを起こすことが多く、食事に関しても不評であった。
ある運転者は2階の売店で売られていたカップヌードルに、地元の採れたて生卵とねぎを刻んで入れて食べるとおいしいことを教えてくれたが、これが実においしかった。
シャトルバス中央事業所での食生活は貧しかったが、これに救いの手を差し伸べてくれたのが近隣のトラック食堂であった。
幸いにも国道6号線沿いには長距離トラック向けの食堂が多く点在しており、煮物や煮込み、肉野菜炒め、豚汁、野菜サラダなどの家庭の味が、多くのスーパーシャトル従業員の胃袋を満たしてくれた。
食堂の各テーブルからは「やあ久しぶりね」や「今度はいつ来るんかい」などの声が聞こえ、トラック食堂はスーパーシャトル従事者と、地元の方々とのコミニュケーションの場となっていた。また、日用品は土浦駅周辺のスーパーなどに買い出しに行くことが多かった。
このようにしてシャトルバス中央事業所での生活は続けられていたが、各自がこれらに半年間耐えてきたのは、64事業者が一堂に会して同じ仕事を成し遂げているという一体感や、国際万博という国家プロジェクトの一翼を担う業務を行っているという使命感がそれを支えてくれていたためだと感じている。
●運転士たちが滞在した宿泊施設の概要
(1)万博中央駅前営業所内の施設(東口)
〇管理室
管理棟の1階にあり、運転者への点呼、宿舎の管理棟の業務が行われていた。
〇食堂
・場所:管理棟1階
・利用席数:100~120席
・営業時間:朝:6:00~9:00 昼:11:30~14:30 夜:18:00~21:00
(連休、夏休みなどは17:30~21:30)。利用方法は食券制又は現金
・そのほかに7:00~19:00まで喫茶コーナーを設置
〇風呂
・場所:管理棟1階
・広さ:1度に30人程度利用可能
・利用時間:18:00~24:00
〇娯楽室
・場所:管理棟1階及び2階
・備品:テレビ、ソファー、自動販売機
〇宿舎
・収容人員:160室 320名(1室2名利用)
・居室:1室10.8m2
・設備:各室にベッド2、ロッカー2、コタツ1、冷房完備
各棟・各階ごとにトイレ、洗面所、洗濯設備
〇駐車場
業務用、来客用及び万博中央駅前に勤務する職員用等の駐車場は、東口及び西口に設置されているが、駐車スペースが限られているので自家用車での通勤は原則不可
(2)万博中央駅西口ターミナルの施設
〇運行管理棟及び事務室
連節バスの発着システムの管理及びシャトルバスの運行に関する指示、連絡などを行う事務室
〇案内所、派出所及び救護所
観客への案内、救護のための施設で、案内係、警察官、看護士などが常駐
〇乗務員休息室
西口ターミナル内においての短時間の休息については、各発着バースの階段下の乗務員休息室を利用する。この乗務員休息室は車内での急病人等を一時的に休息させるための施設としても使用。また、ターミナル緑地内にも臨時の休息所が設置されていた
コメント
コメントの使い方