バス業界はコロナの影響も含めて多くの苦悩を抱える。その1つが乗務員不足だ。日本全国どの事業者もハンドルを握る乗務員のなり手がない中で、その確保のために多くのリソースを割く。そんなバス業界の中でスマホアプリを活用して乗務員自らが進んでリクルーターになっている名鉄バスを取材した。(連載記事・下へ続く)
文:古川智規(バスマガジン編集部)
画像提供:名鉄バス株式会社・株式会社MyRefer
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乗務員不足の根本要因は?
バス乗務員になる人が少ないのにはいくつかの理由があると思われる。問題の第一は待遇面だ。始発から終車まで実際に運転する時間は交代制勤務なので1日中運転するわけではないが、時間帯が不規則で自分の腕に何十人の乗客の命を預かるバス乗務員にしては待遇が良くない。
会社側の事情もあるだろうが、いまだに「バス運転士募集」で時給制契約社員では不安定すぎて誰もなりたがらないだろう。かといって運賃収入が採算ラインを超えている路線ばかりではなく、公共交通機関としての使命もあるので簡単に赤字路線を切り捨てて経営を黒字化するといった単純な話ではない。
また長く続くデフレ経済の中で運賃値上げを繰り返せば「バス離れ」に拍車がかかり逆効果だ。バス乗務員に魅力を感じる人は多いはずだが、「なりたい」けど「なれない」という乖離を生む最も大きな原因がここにある。
第二に運転免許の問題だ。大型バスで旅客を有償運送するためには第二種大型運転免許が必要だが、これを取得するためにはそれなりの時間と費用がかかる。少し前までは大型二種免許所有者のみ募集としたり、費用は自己負担にしたりとハードルが高かった。
タクシー業界ではもっと早くから乗務員不足が深刻で会社負担で第二種普通免許を取得させる事業者が多かったのに、その兆候を見逃してしまったバス事業者にも責任はある。
さすがにここまで乗務員不足が深刻になればそんなことは言っておれず、第一種普通免許さえ持っていれば会社で取得費用を負担する等の支援をする事業者がほとんどだ。
それでも運転免許取得期間中の待遇がバイト並みの時給、あるいは貸し付けまたは最低勤務年数の足かせが付いたりと、不安な転職を断念せざるを得ない事例は多い。
第三の問題点は乗務員の高齢化である。これまでの問題点で乗務員のほとんどが中途採用の転職組であることは容易に察しがつくことだろう。それほど不足しているので、なり手が少ない若手を育てる余裕がなく、結果的に平均年齢が高くなっていく悪循環に陥る。