用もないのにバスに乗るのはバス旅好きならごく普通の選択肢であるが、問題は乗ったバスで辿り着いた終点から先のルート設定だ。
文・写真:中山修一
(バスマガジンWeb/ベストカーWebギャラリー内に、一筆書きなバス旅の現地ロケ写真があります)
■観光地じゃないバスの終点
2025年3月、島根県益田市〜山口県萩市の間を、そのまま県境を越えて結ぶ、島根県のバス会社・石見交通の一般路線バス「二条線」の様子を見に行った。
郊外へ出て23km進み、山口県に入って2kmちょっと先にあるのが、二条線の終点「小島」バス停だ。到着は朝9時前。
バスを降りて周辺を軽く見て回ると、山と田畑・民家が中心の、観光色はそれほど持ち合わせていなさそうな、一般居住地域の雰囲気を強く感じる場所であった。
■来た道戻りたくない症候群
この日、小島に着いた後は昼過ぎ〜夕方くらいに、益田市内に戻るところまでは決めてあったものの、帰りのルートは特に考えないまま終点に来てしまった。
じゃあどうやって益田に戻ろう? 一番単純なのは、乗ってきたバスの折り返し便で帰る方法。16分待てば益田行きの二条線が来てくれる。
ところが、何やらココロの悪魔が囁くわけで。「ホントにそんな簡単なやつでいいの?」って。
若い頃JR線に乗ってあちこち行くが好きで、同じ駅を2回通過しなければ連続した片道乗車券が作れて、距離が伸びれば伸びるほど安くなる「一筆書き切符」に凝っていたことがあった。
有効期限が物凄く長い「東京都区内→東京都区内」の片道乗車券とか、上野始点で寝台特急「あけぼの」と一筆書き切符を組み合わせるには、どの駅で区切るのが一番安く行って帰れるか等々、あれこれ試してみたのも古い思い出。
しかし、今もその一筆書き切符の要領で、とにかく後戻りしたくないクセが抜けていないというか、バスを覚えてから症状がますます悪化したらしい。
ルートを一筆書きにすると、スタート/ゴールが同じ場所でも、ずっと違う景色を見ながら進む分だけ、着いた時がちょっとフレッシュに感じるオマケも付いてくる。
もし二条線の終点が、大きなバスターミナルや駅だったとすれば、別のバスや電車に乗り換えれば至極簡単、余計な悩みもすぐ解消なハズ。
ここで難題としてのし掛かるのが、二条線の終点・小島が、いわゆる田舎の景色が広がっていて、なおかつ先へ向かう公共交通手段がなさそうな場所にある点だ。
■バス旅“最強”の足
ひと昔前なら、帰りのバスが唯一の生命線になっていたかもしれない。とはいえ現在は誰もが電池で動く地図を持ち歩いている時代ゆえ、焦らずに済む余裕がちょこっとだけ増えた。
ちょいとマップアプリを開いてみたところ、どうやら他の交通機関で最も近いのが、JR山陰本線の江崎駅だ。距離は6.3km。
小島→江崎駅間のバスは期待できなさそうなので、ここは路線バス旅最強の足に頼るしかなさそう。どんな足なのか、まさに「足」そのもの、徒歩だ。まあ1時間半くらいかな。
■あれ? バス停があるぞ
江崎駅までは、マップを見る限りほぼ一本道らしい。片側1車線の山口県道17号線をひたすら歩いていけば、そのうち山陰本線の線路にぶつかるとみた。
歩き始めてすぐ、2本の鉄パイプの間に鉄板を取り付けた、山口県内でよく見かける姿形のバス停標識が現れた。あれ、ここバス通ってるの?
時刻表が貼り付けてあり、昔あったバス路線の遺構ではなく現役な模様。「たまがわ生活バス乗り場」と書かれていた。
土地勘が全くないので、どっちの方角へ向かうバスなのかはよく分からないが、一応時刻だけ確認すると、直近が12:28発になっていた。現在時刻が8:53。
これだとバスが来るまで3時間以上待つより、歩いたほうが事故らない限りは全然早い。残念、乗りたくても乗れないバスでした。
道なりに歩いていくと、コンスタントに「たまがわ生活バス」の停留所が置かれていた。基本的に一本道だし、もしかするとこの生活バス、江崎駅方面へのアクセス利用を兼ねているのかも。
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